• HOME
  • 公演レビュー
  • レビュー:東京文化会館オペラBOX『子供と魔法』2022年9月25日(日)東京文化会館小ホール

レビュー:東京文化会館オペラBOX『子供と魔法』2022年9月25日(日)東京文化会館小ホール

東京文化会館オペラBOX『子供と魔法』
2022年9月25日(日)東京文化会館 小ホール

プロが仕掛けるレベルの高い「手作り感」
ファンタジー満載の夢のある舞台

2004年から続く「東京文化会館オペラBOX」シリーズ、今回はラヴェルの1幕のオペラ『子供と魔法』を上演、過去の東京音楽コンクール入賞者が集結した。2部構成で、第1部はオープニングトーク&セッション。続く公演鑑賞のための有意義な情報を提供してくれ、より楽しい鑑賞となった。

第1部のオープニングトーク&セッションが面白い

左から、朝岡聡(ナビゲーター)、岩田達宗(演出)、柴田真郁(指揮・音楽統括)
オペラ『子供と魔法』初演の1925年は第一次世界大戦、スペイン風邪の終息から間もない時代であった

ピアニスト、黒岩航紀

ナビゲーターの朝岡聡の司会進行で指揮・音楽統括の柴田真郁と演出の岩田達宗が登壇し、モーリス・ラヴェルがこの作品の作曲当時どのような状態であったか、当時の世界情勢のことなどを語った。

またラヴェル、そしてラヴェルとほぼ同時代の作曲家、ドビュッシーとフォーレの作品をピアニストの黒岩航紀(彼も東京音楽コンクール入賞者)の演奏で聴き比べることも行われた。

他にも、21もの役があってほとんどの歌手が複数の役をかけ持ちで歌うこと、関連企画のワークショップで舞台美術の一部を参加した子供たちが制作したことなどが語られた。

小さなステージからあふれ出る楽しさ

演奏は2台のピアノと指揮者、そして何役も兼ねる歌手たち──ミニマルな編成でさらにステージも決して広くはない。でもママにしかられた子供が部屋を壊すスタートから、ブワッとステージが膨張して大きくなっていく気がした。

松生紘子が手がけた舞台美術が素晴らしい。絢爛豪華ではなくワクワクするようなセット、衣裳、特に色使いがビビッドで楽しい。子供向けというのを意識したのだろうか。

歌手たちも狭いであろうに、いろいろ置いてあるステージのセットをスイスイとコミカルに動き回り、しっかり歌を聴かせる。早替えも巧みだった。ステージ裏ではつつがなく進行するよう緊張があったのだろうけれど、同時に歌手陣も楽しんでいたのでは。

クリックで拡大

ほとんど出ずっぱりの子供役の冨岡明子、火とウグイス役の中江早希などの健闘ぶりが目立ったが、今回の上演はすべての出演者が印象に強く残った。「どんな人にも心の奥底に持つ優しさ」というテーマもブレることなくしっかりと伝わってきた。

終盤、一般公募で結成された児童合唱「プティ・レネット」も大健闘。

終始気負うことなく楽しめ、それでいてとても洗練された舞台で、ラヴェルがこの作品に付けた「ファンタジー・リリック」という言葉の意味通り、素敵なファンタジーを見せてもらった。

写真:飯田耕治 提供:東京文化会館


公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。