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レビュー:NISSAY OPERA 2022/ニッセイ名作シリーズ2022『セビリアの理髪師』2022年6月11日(土)日生劇場

NISSAY OPERA 2022
『セビリアの理髪師』

歌手もオケも指揮者も観客も劇場に集った全員がハッピーに

 2016年に初演された粟國淳演出の『セビリアの理髪師』、2020年再演の予定が中止となり、ようやく上演が実現した。

出演する歌手の全員(2キャスト)がオーディションで決まるのが特徴の日生劇場のオペラ・シリーズ、地方公演と中・高生向けの無料公演も必ず行うことになっているので公演数が多いことから上演を決定するのも大変な決断だったことと思う。

2年を経ての公演は、やはり底抜けに明るく、劇場に来てよかったと思える内容だった。

 11日のキャストはアルマヴィーヴァ伯爵の中井亮一とロジーナ役の冨岡明子、ドン・バジリオの伊藤貴之が初演時と同じキャスト、さらにフィガロ役の須藤慎吾、バルトロに黒田博という強力な実力者が加わり、もう超絶技巧がどうのということよりも『セビリアの理髪師』の世界にすぐにどっぷりと入り込み楽しんでしまった。

黒田は狡猾で若い娘にことごとく疎まれる嫌な中年男バルトロを、一方冨岡のロジーナはアクティブで決してネガティブにならない娘を好演。

須藤のフィガロは調子良く立ち回り単純な勧善懲悪を好むというだけでない「本来あるべき場所に人々を収める」という意志がそこはかとなく感じられた。ベルタの種谷典子の演技がキュートで歌唱も抜群、印象に残った。

 舞台装置はユニークで目まぐるしく転換するが、それが小気味よく、喜劇にふさわしいものだった。

 そして沼尻竜典の指揮によるオーケストラ。第1幕最後のコンチェルタート(全員のアンサンブル)のクライマックスへの持っていき方や、ラストの大団円の盛り上がりもすっきりとしており、最後まで軽やかに走り抜けた。

 歌手、演奏、舞台、すべてバランスよく調和している丁寧に作られたプロダクションで、オペラ鑑賞初心者もわかりやすく楽しめる。これからも再演を重ねていってほしい。

photo by 三枝近志


公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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