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小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』アンリ・ミュルジェール:~オペラ『ラ・ボエーム』の原作紹介~オペラの原作#07-2

オペラと原作の違い

オペラと原作の違いは、まず作品が持つトーンが挙げられると思います。オペラではロドルフ(ロドルフォ)とミミの恋愛が主軸に置かれていますが、原作では物語の中盤までミミは登場しません。

代わりに、ボエームたちのしっちゃかめっちゃかぶりがコミカルに活き活きと描かれています。その生活のリアルさは当時を生きた若き芸術家たちの想いや生き様を現代に伝えるものとなっています。

オペラで有名なミミが隣人のロドルフに蝋燭の火をもらいに行き恋に落ちるというシーンが、原作ではジャックとフランシーヌの出会いとして書かれているのも大きな違いです。

原作では、家賃未払いで追い出されたロドルフの後に入居したのがミミで、すでにそのとき2人は知り合いであったということですので、オペラ版ではドラマチックな出会いを演出するために〝フランシーヌのマフ〟のエピソードを採用したのかもしれませんね。


オペラ『ラ・ボエーム』の作品紹介はこちら↓

アンリ・ミュルジェールについて

『ラ・ボエーム』といえばプッチーニという印象が強く、原作者であるアンリ・ミュルジェールの知名度は高くない気がします。
邦訳にしても、全訳が出版されたのは2019年と最近ですので、馴染がないのは当然かもしれません。

アンリ・ミュルジェールは1822年、パリの仕立て屋兼アパルトマンの管理人の両親のもとに生まれました。裕福とはいえない家庭だったそうです。

芸術家志望だったミュルジェールは、手に職をつけさせたい父と折り合いが悪く、親元を離れてボエーム生活をします。ミュルジェールも小説同様、カフェ〈モミュス〉に仲間たちと集まり、半端仕事をして、家賃の節約のため共同で下宿を借り、作家として成功するという野心を抱いていました。

小説が少しずつ雑誌に掲載され始め、五幕劇『ボヘミアン生活』が人気を得たことで一躍著名作家となり、1858年には皇帝ナポレオン三世によりレジオン・ドヌール勲章を授与されます。極貧なボエームが夢を叶えた瞬間でした。

1861年、ミュルジェールは動脈炎により亡くなりました。
死後、ミュルジェールの胸像が小説内で度々登場するリュクサンブール庭園に建てられました。

アンリ・ミュルジェール像 (リュクサンブール庭園)
アンリ=テオフィル・ブイヨン作 , 1895年

Thesupermat, CC BY-SA 3.0

出典:Wikimedia Commons

関連作品

ミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』

ボヘミアンを夢見るイギリスの青年が、父親の反対を押し切ってパリのモンマルトルへ飛び込み、踊り子と恋に落ちる『ムーラン・ルージュ』

ロートレックやエリック・サティなど実在の芸術家も登場します。
こちらは『ラ・ボエーム』と『椿姫』などを元にして作られました。


『椿姫』の原作紹介はこちら↓



また、この映画を原作としたミュージカル『Moulin Rouge! The Musical』が2018年ボストン公演を皮切りにその後もアメリカ、イギリス、オーストラリアで上演され、2023年は初の日本公演(6月18日〜8月31日、帝国劇場)ということで現在話題となっています。

ミュージカル『レント』


『ラ・ボエーム』の舞台パリのカルチェ・ラタンを現代のニューヨークに置き換えるという着想のもと作られたのが『レント』です。

この作品では、映像作家やロックミュージシャン、パフォーマーなど、現代版ボエームと呼べるような登場人物たちが、イーストヴィレッジを舞台にして、青春の輝きや儚さを伝える物語となっています。

7年の構想期間を経て、プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』初演からちょうど100年にあたる1996年2月にオフブロードウェイにて初演。好評を得た後、同年4月にブロードウェイデビューし、以降12年4ヶ月に渡るロングラン公演記録を残しました。その後も世界15ヶ国で上演が続き、日本でも最高域の人気を誇る作品です。

原作・作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサン・ラーソンはプレビュー公演当日に急逝。1996年のトニー賞ミュージカル部門では最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀オリジナル作曲賞、最優秀助演男優が授与され、その功績は会場からの盛大な拍手で讃えられました。


▼小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』前編


▼オペラ『ラ・ボエーム』作品紹介



1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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