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村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』×ブルックナー『シンフォニー』、ラヴェル『ボレロ』~小説を彩るクラシック#32

ブルックナーの『シンフォニー』とラヴェルの『ボレロ』が印象的に登場する小説、『世界の終りとハードボイルド』。2023年4月に新作長編『街とその不確かな壁』が刊行されることで現在話題の村上春樹による作品です。

作中にクラシック音楽がよく登場し、本人も大のクラシックファンであることで有名な作家、村上春樹。小説を彩るクラシックシリーズでも4回目の登場です。

他の作品紹介はこちらから
村上春樹『風の歌を聴け』×ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第3番』
村上春樹『1973年のピンボール』×ヴィヴァルディ×ヘンデル
村上春樹『シドニーのグリーン・ストリート』×レオンカヴァッロ『道化師』、グレン・グールド

新作がどういった作品になるのか現段階ではまったくわかりませんが、今回は、(もしかしたら繋がりがあるかもしれない)『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に登場するクラシック作品を取り上げてみたいと思います。

1.『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』


出典:Amazon.co.jp


『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は1985年6月に新潮社から刊行されました。

第21回谷崎潤一郎賞受賞。

この小説は、近未来の情報社会を舞台とする「ハードボイルド・ワンダーランド」と、閉ざされた街を舞台とする「世界の終り」という二つの物語が交互に展開されます

登場人物

【ハードボイルド・ワンダーランド】

 

⚪︎ 私
「ハードボイルドワンダーランド」の主人公。計算士の中でも限られた人間にしか使用することがができない「シャフリング」ができる。
⚪︎ 老博士
地下に秘密の研究所を持つ天才科学者。
⚪︎ 太った娘
老博士の娘で、ピンク色の洋服を好む。「私」に協力する。
⚪︎ リファレンス係の女の子
「私」が調べものをするために訪れた図書館で、リファレンス係をしている。胃拡張のため、食欲が旺盛。
【世界の終り】

 

⚪︎ 僕
「世界の終り」の主人公。外の世界から「街」に入ってきて、「夢読み」という仕事に就く。
⚪︎ 影
「僕」の影で、「街」に入るときに、門番の手によって引き剥がされる。「僕」から引き剥がされたことによって、日々、衰弱していく。
⚪︎ 図書館の少女
図書館で「僕」が「夢読み」をするのを補佐する。

あらすじ

ハードボイルド・ワンダーランド

「ハードボイルド・ワンダーランド」の主人公は、計算士の「私」。「システム」という組織に所属しています。

架空の職業である計算士とは、自分の意識の核をブラックボックスとして使い、依頼された情報を管理するという仕事で、情報を盗むことを仕事にしている「記号士」の組織「工場(ファクトリー)」と敵対しています。

ある日、「私」は、謎の老博士に呼び出され、暗号処理の中でも最高度の「シャフリング」を依頼されます。それが発端となり、「システム」と「ファクトリー」の間で、「私」を巡る争いが起こります。

〝ハードボイルド〟というだけあり、その戦いはなかなかにスリリング。近未来の情報戦争といった様相をみせます。

あるとき、老博士の口から、「私」の中には意識の核を焼き切るプログラムがインプットされていたことが明らかにされます。そのプログラムを解除するため、主人公はピンク色の洋服を着た老博士の娘と共に、ハードボイルドに地下世界を奔走します。

プログラム解除の目的は達成されるかに思えるのですが、研究室が敵に襲撃されてしまい、大切な資料が奪われてしまいます。

主人公に残された選択肢は「自殺」か、「意識の消滅」を迎えるか。

タイムリミットが残り24時間となり「私」はあるがままの世界を受け入れて、最後の時を図書館のリファレンス係の女の子と美味しい食事をして過ごすことに決めます。

そして女の子と別れたあと、一人車の中で意識の消滅を迎えます。


世界の終り

世界の終りのパートは、「私」の意識下で展開する物語です。そこは「世界の終り」と呼ばれる閉ざされた街で、背の高い壁に囲まれています。

街のしきたりにより、主人公の「僕」は門番によって影を切り離されて記憶を失い、街の住民となります。

この街はある種の完全さを保っており「僕」は図書館で〝夢読み〟という仕事を任されて、心穏やかに生活していきます。

切り離された影は「僕」の記憶を所持しており、こんな「完全」な世界は間違っていると反発し、「僕」を連れて、街を脱出しようと提案します。

「僕」は半身である影の気持ちが理解できるのですが、図書館で出会った女の子に心惹かれていくようになり、街を脱出する決心がつきません。

影は「僕」と切り離されたことによって、徐々に身体が衰えはじめます。「僕」も影と別れたことによって、心が少しずつ弱っていきます。

南にある「たまり」から街を脱出することができるという発見をした影が、「僕」に最後の決断を迫ります。ですが、「僕」は街に残ることを決め、影は一人で「世界の終り」を抜け出していきます。


参考文献

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』新潮文庫(2010年)


次のページ:2.ブルックナー『シンフォニー』、ラヴェル『ボレロ』|3.まとめ|4.『街と、その不確かな壁』との相違点

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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