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村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』×ブルックナー『シンフォニー』、ラヴェル『ボレロ』~小説を彩るクラシック#32

5.村上春樹6年ぶりの新作長編、『街とその不確かな壁』待望の刊行


2023年4月13日に、新潮社より村上春樹待望の新作『街とその不確かな壁』が刊行されます。


出典:Amazon.co.jp

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。
魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

新潮社

『街とその不確かな壁』特設ページ(新潮社)
https://www.shinchosha.co.jp/special/hm/

新潮社では特設ページも開設され、SNS上でも賑わいを見せています。
「街とその不確かな」ユーザーがたくさん!(笑)

新刊のタイトルが『街とその不確かな壁』と決定したことで、ファンの間では大きな話題となりました。というのも、実は、1980年9月号の『文學界』で同タイトルの小説を発表したことがあるからです(当時のタイトルは『街と、その不確かな壁』街とのあとに読点が入る)。

村上春樹自身は当時書いたこの『街と、その不確かな壁』を「習作」、「失敗作」とみなしており、単行本、著作集には収録しておらず、ここで書かれたテーマを練り上げて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という作品に昇華させました。

「著者直筆サイン入り愛蔵版」が今秋発売予定

新潮社のサイトから愛蔵版刊行のお知らせがアナウンスされました!10万円という金額は高価ですが、限定300部という少なさですので、完売することでしょう。

新作長編『街とその不確かな壁』(2023年4月13日発売)の著者直筆サイン入り愛蔵版が、今秋、新潮社より刊行されます。
意匠を凝らした特別仕様の上製本で、限定300部(シリアルナンバー入り)の予定です。
装幀等の詳細は、2023年6月1日に新潮社HP特設サイト上で発表します。また、発売の2か月前に先着順で予約開始の予定です。

新潮社

6.村上春樹とクラシック音楽


村上春樹といえば、ジャズ喫茶を経営していたということもあり、ジャズのイメージを持たれる方が多いと思います。著作からも、ジャズへの愛や影響を感じることができると思います(文章のリズム感、インプロヴィゼーション的な物語の進め方など)。

その一方で、クラシック音楽も村上文学を語る上では欠かすことのできない要素の一つとなっています。

例えば『1Q84』に印象深く登場するヤナーチェックの『シンフォニエッタ』、『海辺のカフカ』で登場するベートーヴェンピアノ三重奏「大公」(大公トリオ)、『スプートニクの恋人』の主人公すみれの名前はモーツァルトの歌曲「すみれ」から。

また、『ねじまき鳥クロニクル』では一部「泥棒カササギ編」、二部「予言する鳥編」、三部「鳥刺し男編」(それぞれ、ロッシーニのオペラ、シューマン『森の情景』の第七曲「予言する鳥」、モーツァルトのオペラ『魔笛』に登場する鳥刺しパパゲーノにちなんだもの)と、作品の中に、クラシック作品を大胆に(ときに洒脱に)取り入れています。

    
出典:Amazon.co.jp

  


近年ではクラシック音楽関連の本『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(2021年)、『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』(2022年)も刊行されました。

村上作品で、ジャズやロックは物語の日常で流れていることが多い印象ですが、クラシック音楽は、物語を動かすキーや、予兆、暗示として扱われていることが多いような気がします。それは、登場人物たちを別な空間へ誘う措置であったり、これから起こることを示唆するものだったり、と、ただの「音楽」以上の意味が込められているように思います。

新作『街とその不確かな壁』で、クラシック音楽が登場するかどうかはわかりませんが、もし登場するとしたら、その音楽と物語がどのように絡んでいくのかを注目して読んでみるのも面白いかもしれません。


小説を彩るクラシック|村上春樹作品


小説を彩るクラシック


1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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