森谷真理さんインタビュー

長らく海外を活動拠点とされていたソプラノ歌手、森谷真理さん。
日本に拠点を移した途端に世界中がコロナ禍となり公演中止や延期、無観客での上演などライブでの公演が困難になりましたが、そんな状況下でも精力的に活動を続けてきました。
今年に入ってからはほぼ毎月、オペラの公演やリサイタル、オーケストラの共演などの予定が入っています。
超売れっ子の森谷さんは、6月22日に紀尾井ホールにてソロリサイタルを行います。
宮本亜門演出「蝶々夫人」のタイトルロールを歌うため、ドレスデン・ゼンパーオーパーへと旅立つ直前、お忙しいなか時間をいただき、リモートでお話をうかがうことができました。

指導者という別の一面

──この春から大学(名古屋音楽大学准教授・東京藝術大学講師)で後進の指導にあたられています。

森谷:大学で教えることは初めてというわけではなく、2019年から洗足学園音楽大学で教えています。
すごく楽しいですよ。生徒は一所懸命だし彼らから受ける刺激は大きいです。もともと教えたいという気持ちがあって、海外でも個人的に教えていました。
日本で後進の指導をさせていただけるのであれば、ぜひやりたいと思っていました。

録音、録画の経験が全くないのに動画配信に挑戦!

──2019年に日本に拠点を移されました。翌年から世界はコロナ禍になり活動に制約もありました。どのような心境ですごされていたのでしょうか。

森谷:海外で活動していた時期も、ときどき日本に帰ってきてはいたのです。歌手っていつまでも歌うものでもなく、これからどこで暮らしたいか、誰と一緒にいたいのかと考える機会がありました。ずっと外国にいたいのか──外国暮らしは苦ではないし楽しかったけれど、どちらかというと歌うためにいいました。

コロナ禍で仕事が全くなかったのは一カ月だけでした。動画の配信を始めたんです。
私は今まで動画については関心がありませんでした。録音もないです。
自分の歌を残すことに執着がなかったんです。動画を撮ることになり、初めは四苦八苦していました。

急に動画を作るといっても、どんな機器でみなさん聴くのかわからないしマイクを前にすると歌い方も違ってきます。
どういう曲なら向くのだろうか、どんな場所でならいいのだろうか。ライブでいいものがそのまま録音した場合でもいいかと言ったら決してそうではないんですね。
例えばオーケストラで歌うアリアがお好きなら、会場で聴いていただいた方が臨場感がある。そういう肌で感じる音の質感はさまざまあると思うんです。
密になってはいけないのでリハーサルもそんなにできないし、動画を撮る時マスクをするわけにもいかない。
どこでならいいのか、どういうふうに練習をしたらいいのか、などなど結構いろいろと試行錯誤していました。

あとは、お休み期間中にちょっと自分を見つめ直して練習していました。改善したいところを集中的に直していこうと思ったり。けっこう有意義に時間を使いました。

豊富なレパートリーの秘密

──バロックから現代ものまで、本当に幅広い豊富なレパートリーをお持ちです。
あえて限定せずにいろいろな曲にチャレンジしようとお考えなのでしょうか。それとも単純に好きな曲が多い、ということでしょうか。

森谷:どちらとも言えます。レパートリーというとたしかに幅広いですね。
でも一日でたとえばバロックから現代へと歌い方を変えられるかというとそうではなく、もちろん同じに歌えるものではないので、綿密に、慎重に調整しています。

自分がどの曲も好きっていうことももちろんなのですが、ある時からは自分の経験を活かして、自分の生徒たちにさまざまな歌を届けたいという気持ちも出てきました。
半分くらいは実験も兼ねて。歌ってみてわかることってあるので。知識として持っているものもあるし、耳で聞いて理解できることもある。
「ソプラノ」といってもさらに細分化されていて、このレパートリーならこの声種、という具合にかなり分かれています。
ドラマティコ、コロラトゥーラといっても実はいろんな種類のレパートリーがあります。

私自身、この役はどういう意味でそう言われているのか、自分で実際に体験して理解していくほうなんですね。
知識で理解できればいいんでしょうけれど。全曲歌ってみてようやくわかることがあるのです。
だからいろいろな曲を歌ってみようと思いますし、生徒にも聴いてほしいと思っています。

洒落た趣向を凝らした大人のリサイタル

──6月22日に行われるリサイタルでは、クララ&ロベルト・シューマンとアルマ&グスタフ・マーラーという二組の夫婦、4人の曲で構成されています。リサイタルはこれからもこうした趣向を凝らしていかれるのでしょうか。

森谷:この構想を最初に考えたのは私です。1時間半くらいで歌える曲を並べて終われば楽ですよね。
でもリサイタルをするのであればある程度のコンセプトを決めたいなと思いますし、伝えたい思いもありますね。
どの曲とどの曲を組み合わせたら楽しく聴いていただけるかなとか、この曲の後ならこの曲を聴いていただいた方がいいのかなとか。
第一部の終わりならこういうふうに終わりたい、第二部はこの曲で始めたいなとか毎回考えますね。

耳から入ってくる情報なので、ただ曲を羅列するだけではなく何かしら意図を感じ取っていただけたらいいなと思います。
伴奏の河原忠之さんは日本で伴奏で弾いてもらいたい方として、必ずトップにいらっしゃる方です。
ご自分の世界を持ちつつも私の表現にすごく寄り添っていただけている感じがします。
かといって私だけではなくて、河原さんの世界もちゃんとあって、二人で作り上げていく、という感覚が持てる方だと思います。

リサイタルはオペラとは全く異なります。オペラはみんなで作るもの、私はタイトルロールを歌っていると言っても一つのコマに過ぎないと思っています。
あくまでも演出家と指揮者が決めたコンセプトの中で動くのです。舞台で作り上げる世界を私一人が作っているわけではないです。
リサイタルは、私とピアニストの二人でゼロからコンセプト、世界観を作っていくことになります。

──森谷さんのために、誰かオペラを書いてくれたらいいですね。

森谷:そうですね。例えば私の声や声質を存分に活かせる曲があったらそれは楽しいだろうなと思います。
ただ、これまで結構世界初演の作品を歌っているんですよ。特に私の声のために書かれたわけではないのですが、私がどういう感じのことはできる、という程度に知識のある方が書いたオペラはあります(モーリッツ・エッガート作曲、2016年 世界初演『テラ・ノヴァ』ララ役)。
これは面白かったです。自分でもわかっていなかったけれどこういうこともできるなといった発見がありました。

メンタル強そう、は本当か?

──オペラの世界のドラマティックな女性をいくつも演じておられるのでつい、メンタルがすごく強いのだろうなと思ってしまいます。

森谷:強いって言われます。でも失うものも大きいです。
やっぱりどうしてもこの時にこれをやらなければいけないとか仕上げなければいけないとかあるじゃないですか。みなさんそうだと思います。
自分だけの責任で終わるならいいですけれど、私のせいで公演の質が下がってしまってはいけない。もうがんばるしかないですよね。
ストレスが大きくて、公演が終わってから一週間抜け殻みたいなこともあります。数えるほどですけれどね。
ちゃんと落ち込んだりもしますし、悲しかったり、もうダメかもと思ったりもしますよ。

もっと日本でフランス・オペラの上演を

──NHK-BS2「クラシック倶楽部 森谷真里 魅惑のソプラノ」を拝見し、ドビュッシーの歌曲「抒情的散文」が素晴らしかったです。
フランス・オペラをもっと上演したいとおっしゃっていましたね。

森谷:そう! インタビュー受けるたびに言っているんです。日本ではフランス音楽は集客が難しいということになっているみたいですね。
ドビュッシーの「抒情的散文」、大好きなんです。もっと他の歌手の方にいっぱい歌ってもらって知られるといいなと思っています。
かつて7年間日本で仕事していない時がありました。その後初めてリサイタルを開くことになり、フランス歌曲をプログラムに入れたのですが、集客が難しいよと言われました。
でも聴いてくださったお客さまはみな、いい曲だねって、タイスの歌曲なんかいいね、と言ってくださいました。まだフランスものを上演するには努力がいるみたいですね。

例えば今度リサイタルで披露するクララ・シューマンの曲もあまり馴染みがないと思うのですが、一度聞いていただけたら本当にいい曲と思っていただけると思います。
たまたま日本では演奏の機会が少ない作品というのがありますので、それもあってライフワークじゃないですけれど年に1、2回のリサイタルでは1曲でも知っていただける曲があればという願いがあります。

丁寧にハキハキと質問に答えてくださる森谷さんはしなやかで美しい現代的な女性でした。
「ヘアスタイルをよく変えられますね」、とお聞きしたところ、コロナ禍前はオペラやコンサートが休み無く続いていて、髪の毛は切らないほうがいいいのではと言われていたそうです。
それがコロナ禍のおかげで舞台が減ったため髪の毛をようやくカットしたのだそう。イメージは美容師さんにお任せだとか。髪色も自由に変えて、はつらつとされています。

ドレスデンから帰国後も、ぎっしりとデュオ・コンサートやリサイタル、オーケストラとの共演、オペラとさまざまな公演が予定されています。
今や日本は森谷さんの歌を聴ける機会に恵まれています。ぜひ、森谷さんの歌を聴きに劇場へ行きましょう。


森谷 真理ソプラノ・リサイタル
6月22日(水)
会場:紀尾井ホール

開演:19時
チケット料金:3000円〜6000円

詳しくは:森谷 真理オフィシャルサイト
チケット販売はジャパン・アーツぴあから


★森谷真理さんプロフィール★
栃木県小山市出身、武蔵野音楽大学声楽科卒業。
同大学院声楽専攻首席卒業後、渡米しマネス音楽院修了。
世界各地のコンクールにて優勝、受賞歴多数。
名古屋音楽大学准教授、東京藝術大学講師、洗足学園音楽大学講師。
2019年には「天皇陛下御即位を祝う国民祭典」にて国歌独唱を務めた。
小山評定ふるさと大使。とちぎみらい大使。下総皖一音楽賞受賞。

森谷 真理オフィシャルサイト、ソプラノリサイタル  プロフィールより引用


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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