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レビュー:ソプラニスタ木村優一 2022年オータムコンサート『歌う喜び』 2022年10月10日(月・祝)大手町三井ホール

ソプラニスタ木村優一
2022年オータムコンサート『歌う喜び』
10月10日(月・祝)大手町三井ホール

歌う喜びにあふれた幸せな時間 声楽家としての矜持も

ソプラニスタ 木村優一

ソプラニスタ木村優一が約3年ぶりに開いたリサイタル。舞台に立つ者は舞台に立ってこそ輝くもの、ということを感じさせるひとときだった

練られた構成、プロの助っ人たち

今回は、バックミュージシャンにピアニスト・作編曲家の榊原大とギタリストの越田太郎丸が参加。二人とも穏やかで木村との掛け合いも楽しく、引き出しをたくさん持っていそうな達者な演奏を披露するなど、プロらしい佇まいだった。

榊原大(ピアノ)と越田太郎丸(ギター)

プログラムは2部構成で、第1部は最初にクラシックの歌曲を3曲とミュージカル・ナンバーを4曲、そして第2部はポップスを中心に自作も含めた8曲を披露した。

数曲歌うごとにMCがたっぷりと挟まれ、選曲の理由、自身の曲へ込めた思いなどが語られた。
このMCのおかげで聴いたことがない曲でも観客はすんなりと集中できたのではと思う。

特に『暗闇にさようなら』という曲は、ジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画『暁の出撃』の主題歌(ヘンリー・マンシーニ作曲)で耳にする機会はあまりない。
アカデミー音楽賞にノミネートされてたもののどちらかというとレアな曲なのだが、彼の解説により身近なものとなった。彼のミュージカルへの愛も感じられ興味深かった。

今回のリサイタルに向けての練習風景を動画にしている。全三回


第2部で歌われた『夜来香』『黄昏のビギン』などは、聴衆の年齢層を意識したものだろうか。今流行している曲ではなく、誰でも知っている馴染みのある曲が並んだ。
ポップスに関しては、「うますぎる」というのが率直な感想。まじめな性格ゆえと思うが上手に羽目を外す、というもう一工夫があってもいいのでは。

『夜来香』… もとは中国歌謡。山口淑子の歌唱で1950年国内リリース。テレサ・テン(1996年)など多くの名歌手にもカバーされている。
『黄昏のビギン』… 水原弘の歌唱で1959年リリース。1991年のちあきなおみによるカバーでも大ヒットしている。

オリジナルの2曲『Tell Me True』と『青空』では伸びやかな「彼らしさ」が発揮されていたと思う。どの曲も楽しそうに歌っているのが印象的で、やわらかな美しさが特徴の声が一層心地よく会場を包んでいた。 アンコールではステージの後ろのカーテンが開けられて夕焼け空が美しく見え、自然の演出を楽しむことができた。

声楽家であることを感じさせた曲

最初に歌った3曲、特にヘンデル『メサイア』からの『シオンの娘よ大いに喜べ』を聴いた瞬間、木村優一は声楽家であることを実感させられた。声楽の教育を受け、自在にコントロールできる声の力であっという間に聴衆を引き込む力を持つ者……そういう人にしか達することのできない領域に木村は確かにいる。
『五木の子守唄』も良かった。声の美しさが際立っていた。歌い継がれてきた古典、民謡、こういった曲で本来の木村の能力が発揮され、それを知ることができたのは幸運だった。

どんなジャンルの歌も歌いこなせる、さらにサービス精神旺盛ということで、今回は全方向に気を配った選曲となっていた。もしも今後さらにライブの機会が増えるのであれば、ジャンルを絞り込んだ選曲でコンセプトを明確にし、さまざまなタイプのコンサートを開いても良いのではないだろうか。

美しい声をもっと広く多くの人に聴いてもらいたいと純粋に思った公演だった。


Youtube公式チャンネル、毎週土曜日更新

木村優一公式チャンネル https://www.youtube.com/channel/UCFsXXbudcL9tC8aIt5KiNqA




公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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