ロックバレエ再演!『ROCK BALLET with QUEEN』2023年5月17日(水) ── ロイヤル・バレエ団との共演やモーリス・ベジャール『バレエ・フォー・ライフ』、『Teo Toriatte』に見るロックバンド「QUEEN」とバレエ、日本との関係
4.日本とQUEEN
『ROCKBALLET with QUEEN』は脚本も振付も日本のスタッフによる制作です。
実はQUEEN、日本との縁や関係が深いバンドであり、また日本人からも非常に愛されたバンドでもあるのです。
日本との友好の始まり──
1975年、日本単独公演
はじまりは1974年ごろのことでした。
QUEENはデビュー二年目。二枚目と三枚目のアルバムをリリースし、イギリスでは批評家やメディアにはケチをつけられながらも、シングル『キラー・クイーン』が全英シングル・チャート二位を獲得しスターになりつつある時期で、ディープ・パープルなどの当時既に大スター扱いだったアーティストの前座としてツアーをしていました。
そんな中、日本では当時最も影響力のあった音楽雑誌『ミュージック・ライフ』が彼らを熱烈にプッシュし、シングル『キラー・クイーン』から第一次のQUEENブームが到来します。まだロックは男が聴くものという観念が強かった時期に、掲載されたメンバーの写真の格好良さに女性ファンも多くついていました。
この日本での流行を受け、1975年、QUEENは他バンドの前座として全米ツアーをした後に日本へ立ち寄り、単独公演を開催します。
すると、おそらくよそでは”人気が出始めている新人”扱いでも日本では”初来訪の人気アーティスト”という認識だったのでしょうか、これまでQUEENメンバーが一度も受けたことがないほどの熱狂的な歓迎とVIP待遇を受けることになります。
その熱狂ぶりは、9年前のビートルズ来日と同じかそれ以上だったと言われるほど。
QUEENメンバーは日本のファンからのこれまでで最大の声援を喜び、日本への愛着を持ったようです。またこの時に得た多額の収益がその後の単独全米ツアーなどの元手に大きく貢献したそうで、躍進の足掛かりにもなったと言われています。
結果、後のQUEENの活動において、日本は母国イギリス、世界の中心たるアメリカに次いで特別な扱いをされることになります。
異例の全国ツアー、日本語歌詞の名曲『手をとりあって』
当時の海外アーティストは来日公演をするとしても東京で一公演、よくて大阪でもう一公演する程度だったなか、QUEENは札幌や仙台などをはじめ、日本の各地を巡るツアーを開催します。メンバーもツアーを通じて日本の各地の文化や景色を楽しんだそう。
また、五枚目のアルバム『華麗なるレース』の『Teo toriatte(邦題:手をとりあって)』は、なんと日本語を含む歌です!
『ROCKBALLETwithQUEEN』でも使用される。
この曲はサビが二回続くのですが、一回目が英語、二回目は同じ内容を日本語訳したものを歌います。当時の通訳であった鯨岡ちかが日本語詞への翻訳を担いました。
日本公演では決まって歌われるレパートリーでした。
メンバーも私的に日本とのかかわりをもっています。
フレディは日本で骨董品や伊万里焼を蒐集したり、自宅に日本庭園を造っていました。
ブライアンは畳を非常に気に入ってイギリスに持ち帰れないのを悔しがったと伝わっています。また、歌手の本田美奈子.(1967-2005。デビュー1985年)のプロデュースに関わり、楽曲提供したり演奏参加をしました。
ロジャーも94年にX JAPANのYOSHIKIとコラボレーションしています。
ブライアン・メイが作曲、プロデュースした本田美奈子の楽曲。
彼女もまた、白血病により若くして早世した。
日本での第二次、第三次QUEENブーム
日本ではその後2004年に第二次ブームが訪れます。
木村拓哉主演の月九ドラマ『プライド』で主題歌に『I was born to love you』、それ以外にもBGMや挿入歌として多くのQUEENの曲を採用しており、このドラマのサウンド・トラックを兼ねた日本独自ベスト・アルバムの『QUEEN JEWELS』がリリースされ、オリコンチャート一位を獲得する大ヒットに。
74〜75年頃の最初のブームから30年近く経っての第二次ブームでは、親子二代でQUEENにハマるケースもありました。
出典:Amazon.co.jp
さらに14年後の2018年にはQUEENの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』が全世界で公開され、世界中でQUEENのリバイバルブームが訪れます。もちろん日本でも盛り上がり、日本における第三次ブームになりました。
5.国内関連作品
日本国内からQUEENへのリスペクトも、このバレエ公演だけではありません。
名前を借りたり、名曲を引用・援用したり、様々な形でQUEENの影響やQUEENを受けた作品がたくさんあります。幅広いジャンルに拡がったQUEENの影響が、さらにその後の世代の人がのQUEENへの出会うきっかけになっています。
大きな作品になっているもの以外でも、スポーツ応援、CMソング、あるいは『タモリ倶楽部』の空耳アワーなどから知ったという人もいるのではないでしょうか。
ドラマ『プライド』
2004年放映のフジテレビ月九9ドラマです。実業団アイスホッケーの選手、里中ハル(演:木村拓哉)たちの戦いと恋愛模様を、『I was born to love you』をはじめとしたQUEENの曲が彩ります。
上述したように第二次QUEENブームを巻き起こした人気作です。
現在は映像ソフトを入手するほか、フジテレビ公式配信のFODで配信されているものを観られます。
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』
ポップカルチャーでもQUEENやそのメンバーに影響を受けた作品は多々あります。
なかでも有名なものは、洋楽に影響を大きく受けている大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズでしょう。
この作品には”スタンド”と呼ばれる超能力が登場し、その多くに洋楽のバンド名や楽曲名に由来する名前がつけられています。
QUEENの曲に由来する超能力は三回登場していて、そのうち二回は部のラスボスの超能力という超重要なポジションを与えられる待遇です。
スタンドは超能力に魔人のようなイメージを持たせたもので、その後のフィクションにも大きな影響を与えた発明でもあった。
第四部ラスボスのスタンド「キラークイーン」は元ネタの歌詞《Gunpowder, Gelatine,Dynamite(火薬、ニトロゲル、ダイナマイト)》にちなんでか三種の爆弾を使う。
超能力の持ち主は《To avoid complications》面倒ごとを避けて暮らしたい《Fastidious and precise》気難しく几帳面な《Killer》殺人鬼と、これも歌詞に沿ったキャラ。
第六部ラスボスのスタンド「メイド・イン・ヘブン」。
こちらの持ち主は、過去に倒された第三部のラスボスの意思を継ぐキャラという点で、アルバム「メイド・イン・ヘヴン」に重ねて名付けられたのだろう。
ゲーム『ギルティギア』
洋楽のリスペクトやオマージュ満載の人気格闘ゲーム『ギルティギア』シリーズでは、一番のメインキャラクター「ソル・バッドガイ」がQUEEN、というよりはフレディを強く意識しています。
キャラ名はフレディのソロアルバム『Mr.Bad Guy』から。ソルというのは偽名で、本名がフレデリック・バルサラというのですが、これもフレディの変形と、フレディの旧姓の組み合わせです。
彼の宝物は初めて買ったレコードの『シアー・ハート・アタック』(QUEENの三枚目のアルバム)と設定されているので、QUEENオマージュキャラであると同時に、QUEENファンのキャラクターでもあります。
QUEENの日本語訳メドレー『女王様物語』
『Runner』で有名な爆風スランプのギター、パッパラー河合が別名義で歌うQUEENのカバー・メドレーなのですが、その最大の特徴は「歌詞が全て日本語に直訳されている」ということ。
例えば『Bohemian Rhapsody』の冒頭「Mama,Just killed a man」は「母さん、俺殺っちゃった~」、『Bicycle Race』の「Bicycle!」のコーラスは「じ~てんしゃ!」、『We are the champion』にいたっては『我ら横綱』という具合。一部の固有名詞以外は全部日本語です。
翻訳の妙が笑いを誘うだけでなく、こんなことを歌ってるんだというのを母語として感じられる原曲では味わえない体験を通じて、原曲がもっと好きになれる名カバーです。
ふざけているように見えて、演奏のコピー技術は優れたものです。80年代半ばから世紀末を駆け抜けた人気バンドの実力が伺えます。
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