小説『椿姫』アレクサンドル・デュマ・フィス:〜オペラ『椿姫』の原作紹介〜オペラの原作#03
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
オペラ『椿姫』の原作
アレクサンドル・デュマ・フィス『椿姫』
オペラ『椿姫』はイタリアのオペラ王ジュゼッペ・ヴェルディが作曲した、現在も毎年のように上演される人気作
1855年頃出版の『椿姫』ヴォーカルスコア。
出典:Wikimedia Commons
アレクサンドル・デュマ・フィス
アレクサンドル・デュマ・フィスは小説『椿姫』(原題:La Dame aux camélias 直訳で椿の花の貴婦人の意)を出版したすぐ後、周囲からの勧めで戯曲版を制作し、大成功を収めます。
ちょうどパリに滞在していたジュゼッペ・ヴェルディはこの演劇を観賞して感銘を受け、折よく受けていたオペラの作曲依頼にこの作品を用いることを決めたそうです。
オペラでは有名アリア「ああ、 そは彼の人か~花から花へ」や「プロヴァンスの海と陸」等、聴きどころが満載。「乾杯の歌(友よ、さあ飲みあかそう)」はNHKニューイヤーオペラコンサートの定番となっていますね。
今回は、オペラ『椿姫』の原作について紹介します。
『椿姫』アレクサンドル・デュマ・フィス
オペラ、バレエ共に世界中で愛されるこの恋愛悲劇は、作者であるアレクサンドル・デュマ・フィスが恋に落ち、その死を見届けることとなった実在の高級娼婦マリ・デュプレシをモデルに書いた小説です。
小説『椿姫』の登場人物と舞台
小説『椿姫』の登場人物
- 「私」(語り部、デュマ・フィス)
物語の語り部。アルマンからマルグリットとの悲痛な恋愛を打ち明けられ、小説『椿姫』をまとめる。 - マルグリット・ゴーティエ
パリの裏社交界で椿姫というあだ名で呼ばれる高級娼婦。
いつも椿の花を身に着け、その色で仕事を受けられるかを示していた。 - アルマン・デュヴァル
純情多感な青年。マルグリットの恋人。 - プリュダンス・デュヴェルノワ
恰幅のいい四十過ぎの女性。元〈玄人〉女で、金にがめつい。 - アルマンの父
厳格な父親。オペラではジョルジョ。 - ジュリー・デュプラ
マルグリットの友人。マルグリットの死を見届ける。
小説『椿姫』の舞台
19世紀半ば、フランス、パリ
小説『椿姫』のあらすじ
小説『椿姫』あらすじ
「私」とアルマンとの出会い
物語は、語り部の「私」が「アンタン街九番地で競売が行われる」という告知を目にするところから始まります。骨董好きの「私」は、買わないまでも見るだけは見ようと競売に出かけていきます。
競売は故人の部屋で行われていました。そこには上流社会の貴婦人たちがたくさん詰めかけていました。どうやら、有名な娼婦がなくなったらしいということがわかった語り部は、番人に「ここに住んでおられた方はなんとおっしゃるんですかね?」と訊ねます。
「マルグリット・ゴーティエさんです」
「マルグリット・ゴーティエだって?」
たしかに病気だとは聞いていたが、亡くなっていたとは。「私」は、マルグリットの娼婦らしからぬ気高さと気品を思い出し、その死に驚かされます。
いよいよ競売が始まり、衣装や宝石、カシミヤのショールなどは羽が生えたように売切れていきます。
どうせ今日は見学だと思っていた「私」の耳に、次の言葉が飛び込んできます。
「書物一冊。標題は『マノン・レスコー』扉に何か書き入れがあります。十フラン」
書き入れがあるという言葉に何かを感じた語り部は、何がなんでも手に入れてやろうと、本一冊には法外な100フランという値段で落札します。
(当時の1フランは現在の1000円相当なので、約10万円で落札。ただし当時は書物自体の価値が今より高く、開始価格でも1万円相当である)
本には次のような書き入れがありました。
“マノンをマルグリットへ送る。慎み深くあれ。アルマン・デュヴァル”
「私」は、アベ・プレヴォが書いた運命の悪女マノンとマルグリットを比べて、砂漠で愛する男の腕に抱かれて死んだマノンのほうが幸せだったかもしれない、と思います。そう思わせるほど、競売で何もかもがなくなってしまった部屋は寂しいものでした。
競売にもすっかりけりがつき、マルグリットの住まいも空き家となった数日後、「私」のもとに金髪の、背の高い、青ざめた顔をした青年が訪ねてきます。
それは『マノン・レスコー』に書入れをした人物アルマン・デュヴァルでした。
小説『椿姫』あらすじ
アルマンの回想。
アルマンとマルグリットの出会い
アルマンは狼狽した様子で、「私」に彼女が残した『マノン・レスコー』を譲ってほしいと頼みます。語り部は快くそれを承諾し、本をアルマンに渡します。
作家である「私」は、好奇心からアルマンにマルグリットのことを訊きたくてたまりませんでした。それを察したように、アルマンは一通の手紙を語り部に差し出します。
死の前に書いたマルグリットからの手紙でした。
そこには病と闘う懸命な姿と、アルマンと過ごした楽しかった日々と、パリへ戻ったら日記を預けているジュリー・デュプラのもとへ尋ねるように、ということが書かれていました。手紙の最後のほうは手に力が入らず、ほとんど読み取れなくなっていました。
死ぬ前にマルグリットと会うことができなかったアルマンは絶望していました。語り部はアルマンを慰め、再会を約束し、アルマンは家を後にします。
長い間アルマンと会うことがなかった語り部は、その後アルマンがどうしているか気になっていました。マルグリットが葬られたモンマルトル墓地に行けば手がかりが掴めるかもしれない、と思い立ち墓地に出かけていくと、果たしてアルマンと再会することができました。
アルマンはどうしてもマルグリットの死が受け入れられず、墓の下のマルグリットと再会しようとしていました。そのためにマルグリットの妹から許可を得て、墓から新しい墓へ移す許可を得ていました。
墓堀り人夫は棺を取り出して、蓋を外しました。そこには変わり果てたマルグリットの姿がありました。警官に「マルグリットさんに間違いないですね?」と訊かれ、アルマンはうなだれながらそれを認めます。
マルグリットの死をどうにか受け入れたアルマンは精神を病み、倒れてしまいました。
アルマンが病に臥せっていた間、ほとんどつきっきりでいた「私」は親密な友情を獲得します。アルマンが回復期に入ったとき、マルグリットとの出会いを「私」に語り始めます。
2年ほど前から一方的にマルグリットの存在を知っていたアルマンは、そのときから彼女のことが気になっていました。
友人とオペラ・コミック座へ舞台を観にいったとき、偶然、舞台の桟敷席で観劇しているマルグリットを発見したアルマンは、たまたまマルグリットと知り合いだった友人の助力で彼女を紹介してもらうことになります。
純情多感なアルマンは初対面なのに物怖じしないマルグリットの世慣れた対応に面食らい、「二度とあんな女に会わない」と友人に告げます。だけど、心ではそれと反対のことを思っていました。
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