ヘルマン・ヘッセ『デーミアン ── エーミール・シンクレアの青春記』×ブクステフーデ『パッサカリア』 小説を彩るクラシック#14

『デーミアン──エーミール・シンクレアの青春記』

『デーミアン』は、1919年、エーミール・シンクレア作としてS・フィッシャー社から出版されました。

平和主義者のヘッセは、第一次世界大戦が勃発し、ドイツ国民が熱狂するさなか、戦争を批判する声明を出します。
その結果、ドイツでは「裏切者」「臆病者」と罵られ、ヘルマン・ヘッセの名前では自分の声が届かないのでは？　という状況から、エーミール・シンクレアというペンネームを使い、シンクレアの手記という形でこの小説を発表します。

ストーリー

主人公はエーミール・シンクレア。ふたつの世界の中で揺れ動く繊細な少年です。

ふたつの世界というのは簡単にいってしまえば「善」なる世界と「悪」なる世界。シンクレアの家族は「善」の領域に生きるものたち、「悪」は家の外にある現実(酔っ払い、暴力、強盗など)です。
家の世界は平和で秩序がありますが、退屈。外の世界は無秩序で危険ですが、シンクレアの目には魅力的に映ります。

ある日、年上の不良少年フランツ・クローマーとその仲間と一緒にいるとき、シンクレアは見栄を張って「果樹園からリンゴを盗んだ」という嘘をついてしまいます。

「やるじゃないか」と一目置かれることを期待しましたが、クローマーは「あの果樹園の持ち主はリンゴ犯を捕まえたら2マルク払うと言っているんだ」と言うと、残忍に笑いながら「お前が2マルク払うんだったら密告はしないでやる」とシンクレアを脅迫しました。そんな大金を持っていないシンクレアは「なんでもするから許してくれ」と許しを求め、この日からクローマーの言いなりになってしまいました。
ある日、学校にマックス・デーミアンというミステリアスな少年が転校してきます。デーミアンは独特で、個性的、とても目立つ少年なのですが、目立たないように腐心しています。シンクレアは「変装した王子が農民の子どもたちにまじって、一生懸命まわりに合わせている」ようだと感じます。

デーミアンはシンクレアに興味を持ち、二人は仲良くなっていきます。そして二人が仲良くなるや、クローマーはシンクレアに近づかなくなります。シンクレアの裏でデーミアンがクローマーに何かの働きかけをしたのですが、デーミアンはそれをはぐらかします。

「善」なるものと「悪」なるものを行き来するかのように自由な発想を持つデーミアンはカリスマで、シンクレアに多大な影響を与えます。
二人の関係はシンクレアがギムナジウム(高等中学校)の宿舎に入るまで続きます。

ギムナジウムに入り、親元を離れたシンクレアは、幼年時代が終わったことを悟り、孤独を感じ始めました。すっかりふさぎこみ、絶望を募らせ始め、学校の先輩に酒を飲まされたことをきっかけに、酒に溺れていきます。一人で酒屋に入るようになり、いっぱしの酒飲みとして孤独に落ちぶれていきます。