恩田陸『蜜蜂と遠雷』×J.S.バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第一巻』~小説を彩るクラシック#30
音を外へ連れ出すこと~架空曲『春と修羅』
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— MyKaiju (@MyKaiju) March 26, 2017
『春と修羅』が映画『シン・ゴジラ』で登場したシーン。米津玄師『恋と病熱』のタイトルもこの詩集からの引用など、恩田以外にも多くの創作者に影響している。
この物語のテーマの一つは「音を外へ連れ出すこと」です。
世界はもともと音に溢れています。鳥のさえずりや、雨が地面に落ちる音、蜜蜂の羽音など……人間はその音を楽譜に封じ込めました。
音は世界にあったわけです。
権威や地位がモノを言うクラシック音楽界で、風間塵というトリックスターは天衣無縫に音をつかまえて遊びます。
亜夜は塵とマサルに触発されて、再び歩き出します。
マサルも、塵という才能に触れて、ピアニストから作曲家への可能性を探り始めます。
明石は生活者であり、音楽家でもある自己を確立していきます。
映画版で制作された『春と修羅』
この小説には「才能」というテーマもあるのですが、それは「個性」と言いかえてもいいような気がします。
架空の音楽家菱沼忠明が作曲した課題曲『春と修羅』が登場し、この曲にはカデンツァ(即興)パートが用意されており、コンテスタントたちの個性が発揮されます。
カデンツァ部には「自由に、宇宙を感じて」と書かれており、登場人物たちの個性と哲学、音楽への姿勢が垣間見れて面白いです。
宮沢賢治原作の口語詩をもとに作曲した『春と修羅』を、原作からのアプローチで演奏した明石。森羅万象と余白の美、日本をイメージし、スケールの大きい演奏を披露したマサル。嵐のような激しい演奏で自然の「修羅」を表現した塵。それを受けて母なる慈しみを音楽に落とし込んだ亜夜。
ここにはそれぞれの音楽への(人生へのといってもいいかもしれません)向き合い方が表れていると思います。
この物語はコンクールの物語です。一次予選から本選までが描かれ、1位から6位まで順番がつけられ発表されます(特別賞もあります)。誰が1位になるんだろう、と読めばスリリングなエンタメ作品として読むこともできますし、コンクールを通して成長や友情を楽しむ青春群像劇としても読むことができます。
そして、クラシック音楽ファンのみなさんは登場する音楽の数々に圧倒されると思います。とくに本選で弾かれるプロコフィエフやバルトークは本から音が飛び出すように感じるはず。
『蜜蜂と遠雷』は本当に音楽を聴きたくなる作品です。
音楽好きのみなさんは是非手に取って読んでみてください。
参考文献
恩田陸(2016年)『蜜蜂と遠雷』幻冬舎文庫
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