音楽と踊りを純粋に楽しむ抽象バレエ『シンフォニー・イン・C』の構成や制作経緯を解説|23年1月に新国立劇場バレエ団で上演予定
4. バレエ『シンフォニー・イン・C』の衣装
先述のとおり、『シンフォニー・イン・C』に改題される前の『水晶宮』では、カラフルな衣装が用いられていました。
【『水晶宮』の衣装の色】
- 第1楽章:ルビー(赤)
- 第2楽章:サファイア(青)
- 第3楽章:エメラルド(緑)
- 第4楽章:クリスタルまたはダイヤモンド、パールとも(白)
改題後の『シンフォニー・イン・C』を上演しているニューヨーク・シティ・バレエ団の女性のチュチュは、14枚のチュールを重ね、スワロフスキーを表面にデコレーションするなど、シンプルながらも豪華な衣装となっています。
▼パリ・オペラ座の『水晶宮』
(リンク先動画は現在公開停止済み)
▼ ニューヨーク・シティ・バレエ団の『シンフォニー・イン・C』の衣装について
5. アブストラクト・バレエについて
ここで、「アブストラクト・バレエ」について、もう少し詳しく解説します。
「アブストラクト・バレエ」とは冒頭でも解説したとおり、ストーリーのない抽象的なバレエのことです。
歴史的な流れで見ると、アブストラクト・バレエは、20世紀以降に生まれた新しいバレエ「モダン・バレエ」のひとつです。
20世紀以前のロマンティック・バレエやクラシック・バレエでは、物語があることが前提でした。
一方、アブストラクト・バレエは、物語やマイム(動きでセリフを表すこと)による意味をなくし、音楽と動きの美しさで見せるようになったのが特徴です。
アブストラクト・バレエの第一人者はバランシンであると言われていますが、バランシン以前にも、プティパが確立したクラシック・バレエの形式における「ディヴェルティスマン」(※1)やバレエ・リュスの最初の振付家ミハイル・フォーキンによる『レ・シルフィード』(※2)など、アブストラクト・バレエの先駆けは存在します。
(なお、バランシンは「アブストラクト・バレエ」と言われることを嫌い、筋のない「プロットレス・バレエ」と呼んでいたようです)
※1「ディヴェルティスマン」… 物語の筋とは関係のない余興的な踊りのこと。『白鳥の湖』第3幕、『くるみ割り人形』第2幕など、多くの古典作品で見られる。
※2『レ・シルフィード』… フレデリック・ショパンの音楽に合わせて、シルフィード(森の精)と詩人(男性ダンサー)が踊る作品。物語は特にない。
バレエ・リュスとミハイル・フォーキンについてもっと詳しく!
アブストラクト・バレエが流行しだした20世紀は、バレエ以外の芸術においても抽象的なものが流行した時期でした。
また、古典の全幕作品を上演するには多くのダンサーが必要であり、衣装や美術装置に多大な費用がかかることも、アブストラクト・バレエが流行したきっかけの1つであるとも言われています。
アブストラクト・バレエとコンテンポラリー・ダンス
コンテンポラリー・ダンスは、アブストラクト・バレエを含むモダン・バレエよりあとの1980年代に出てきたダンスです。
コンテンポラリーは「現代的な」という意味を持つ単語。動きや表現のルールがなく自由で、「現代的な」という意味のとおり、現在進行形で表現の幅が広がっています。自由であるため、ストーリー性はあってもなくても構いません。
アブストラクト・バレエもコンテンポラリー・ダンスも明確な定義はなく、両者をはっきり区別することは難しいです。
アブストラクト・バレエは20世紀に生まれたモダン・バレエのうちストーリー性がない派生、コンテンポラリー・ダンスはさらにそのあとに生まれたダンスの大きな分野のことで、違う基準であると考えると分かりやすいかもしれません。
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