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プレビュー:英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン『蝶々夫人』6月7日(金)~公開 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24

2024年6月7日(金)~13日(木) TOHOシネマズ 日本橋ほか1週間限定公開
『蝶々夫人』


ソプラノのアスミク・グリゴリアンが
気高い蝶々夫人を好演

©2024 ROH ph. by Marc Brenner

改良を重ね
ミニマルで洗練された舞台

英国ロイヤル・オペラの『蝶々夫人』は2003年に制作されたもので、9回目の再演となります。演出はモッシュ・ライザーとパトリス・コーリエ、再演演出はデイジー・エヴァンスが手がけています。

『蝶々夫人』の上演は近年、とても日本らしさを意識したものとなっています。かつては着物の着方、ヘアメイク、所作などがかなり奇天烈な舞台もあり、これはファンタジー、どこか非西洋文化を持つ架空の国の出来事、と割り切って鑑賞したこともありました。このプロダクションも再演を重ねるうちにどんどん改良され、ナチュラルな日本での出来事として受け入れられます。さらにこの舞台では華美な装飾はなく、照明も効果的な陰影をつけたとても静謐で美しいものです。まるで蝶々さんの凛とした姿を投影しているかのようです。

素晴らしい蝶々さんを披露した
アスミク・グリゴリアン

©2024 ROH ph. by Marc Brenner

元は武士の家のお嬢様だった蝶々さんは父親を亡くし、芸者となっていました。アメリカ人の海軍士官であるピンカートンの現地妻として蝶々さんは結婚します。蝶々さんは「現地妻」だとは知ることなく本当の結婚だと思って嫁ぎます。悲劇の始まりです。ピンカートンは去ってしまいます。彼が置いていったわずかなお金で小さな息子と身の回りの世話をしてくれるスズキとともに、蝶々さんはピンカートンの帰りを待ちます。再びピンカートンがやってきますが、アメリカ人の妻を連れており、さらに息子を引き取ると言われてしまいますが、蝶々さんはすべてを悟り受け入れます。

献身と従順、まさにプッチーニ好み、理想の女性像である蝶々さん。この役を演じたアスミク・グリゴリアンは現在、大変な人気で勢いのある若手ソプラノ。5月に単独で初めて日本でコンサートを開いたばかりです。彼女は柔らかく清楚で、でも芯の強い蝶々さんを見せてくれます。本当に10代の少女に見えてしまう演技力も素晴らしいです

また、ジョシュア・ゲレーロは薄っぺらいピンカートンを好演、蝶々さんに寄り添うスズキ役のホンニ・ウー、シャープレス役のヴァウリ・ヴァサールも心に沁みる存在感を感じさせます。

この作品の見どころを
より一層美しく見せる

©2024 ROH ph. by Marc Brenner

この作品の見どころとされているシーンがあります。

第1幕の花嫁行列のシーン。シャープレスとピンカートンが話しているところに蝶々さんが初めて登場します。白無垢をイメージさせる白い衣裳、そして白い傘を持った蝶々さんと付き添う女性たちが静かにやってきます。この世のものとは思えぬ幻想的な蝶々さんは美しいです。

そしてもう一つはピンカートンが再びやってきたと知り、訪ねてくるのを夜通し待つシーン。蝶々さんはスズキと子どもとともに客席に向けて微動だにせず正座し待ちます。ここはハミング・コーラスが流れ、どのプロダクションも心震える演出がなされるのですが、今回もただ座っている蝶々さんに圧倒され、続く悲劇を知っているだけに観客は胸が苦しくなります。

名アリア「ある晴れた日に」も抜群の歌唱力で魅了されますが、この2つのシーンは舞台美術、照明、すべてが美しいのでぜひ注目してください。

ピンカートンが異なる文化へのリスペクトがなく、結婚という厳粛な行為を軽んじた結果生まれる悲劇。いつの時代でも共感を呼ぶ普遍のテーマを扱った作品です。美しい舞台をぜひご覧ください。


6月7日(金)~ 13日(木)TOHOシネマズ 日本橋ほか1週間限定公開
英国ロイヤル/オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24

『蝶々夫人』

開演
各劇場による

チケット料金
一般・シニア 3,700円
学生・小人  2,500円

詳しくは:東宝東和



エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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