阪田知樹〜デビュー15周年&リストコンクール優勝から10周年〜記者懇親会レポート (2026年4月22日)

2011年にデビューして以来、華々しい活躍を続けるピアニスト阪田知樹。2026年はデビュー15周年とリストコンクール優勝10周年という節目の年にあたる。すでに春のリサイタルツアー9公演が始まっており、秋にも6公演を予定。さらに作曲家としての新曲初演公演や、ツアーとは別に11月には東京オペラシティでのオール・リスト・プログラムのリサイタルも控えており、精力的にライブ活動が続く。
そんな数々の公演を目前に、記者懇親会が開かれた。
今年のコンサートにかける思い
思い入れのあるリスト作品を軸に据えたリサイタル
新作発表公演では“演奏しない”という選択

今年の活動について阪田は、「リストへの回帰」と「新たな挑戦」という2つの軸を挙げる。とりわけ11月のリサイタルについては、自身の音楽的原点を振り返る特別な機会と考えているようだ。
「私にとって、リスト作品はライフワークです。初めてリストの曲を弾いた13歳の頃は理解できませんでしたが、だからこそ惹かれ、研究を重ねてきました。今年のリサイタルでは、コンクール当時の自分の思いを振り返りながら演奏したいと考えています」。さらにリストは優れたピアニストであるがゆえにピアノという楽器の都合をよくわかった上で作曲されているのだとも語った。
プログラムには、コンクールで演奏した『ピアノ・ソナタ ロ短調』や『「ノルマ」の回想』といった作品を中心に据えつつ、『J.S.バッハの主題による変奏曲』や『調性のないバガテル』といった晩年作品も組み込まれる。
彼が満場一致で優勝したリスト・コンクールでは、パイク、カツァリス、コチシュ、クルターグ、ベロフといった錚々たるピアニストが審査員を務め、セミ・ファイナルでは審査員ほぼ全員がスタンディングオベーションをしたことは有名なエピソードだ。『ピアノ・ソナタ ロ短調』は決勝で『「ノルマ」の回想』はセミ・ファイナルで演奏した曲である。
華やかなヴィルトゥオージティだけでなく、実験性や内省性を含む多面的なリスト像を提示し、「一夜でリストの人生を体感できる構成」を目指すという。
「リストは華やかなイメージが強いですが、晩年作品には後のラヴェルやスクリャービンにつながる革新性があります。さまざまな作品を通して、より立体的なリスト像を感じていただきたいです」
また全国ツアーでは、各地のホールに応じてプログラムを自らカスタマイズする。それぞれのホールの空間やそこに集う聴衆との関係性も重視する姿勢がうかがえる。
今年のもう一つの大きな柱となる新作初演公演では、管弦楽作品と、さらに声楽と管弦楽のための作品が予定されており、ピアノは登場しない。
「今回の新作では、自分は演奏しません。作品そのものをどう届けるかに集中したいと考えています」
さらに7月の神奈川フィルハーモニー管弦楽団公演では、フォーレやサン=サーンス作品の弾き振りにも挑戦。11月の群馬交響楽団公演では若手指揮者、米田覚士との共演も予定されている。演奏、指揮、作曲という多岐にわたる活動は、阪田の志向を象徴している。
「Complete Musician」を理想として
懇親会で繰り返し語られたキーワードが、「コンプリート・ミュージシャン(Complete Musician)」である。
「私が理想とする音楽家は、演奏、作曲、指揮、教育など、音楽に関わるあらゆる分野で高いレベルを目指す存在です。リストやラフマニノフ、ブーレーズがまさにそうした存在でした」
阪田は6歳で作曲を始め、永冨正之や松本日之春に師事。さらにナディア・ブーランジェ門下のエミール・ナウモフにも学び、作曲家としての系譜を築いてきた。
一方で演奏家としては、パウル・バドゥラ=スコダやタマーシュ・ヴァーシャリに師事し、リストへと遡る系譜の中に身を置いてきた。ヴァーシャリの祖母が、ハンガリーでリストが『回想』を弾くところを見たことがあるそうで、リストは弾く前に深呼吸して、鼻に空気をたくさんためていたというエピソードを聞いたそう。文献や肖像からはわからない、人間としてのリストを知ることができたと語った。
「演奏の面ではリストからベートーヴェンへと遡る系譜、作曲の面ではフォーレやサン=サーンスへと至る系譜に位置しています」
こうした複層的な背景が、阪田の音楽観を形作っている。
レパートリーは協奏曲だけでも60曲近くに及ぶのに、自身の作品ではあえてピアノ協奏曲を書いていない点も興味深い。
「いずれは自分なりのピアノ協奏曲を書きたいと思っていますが、今はまだ模索の段階です」
また、現代のように作曲・演奏・指揮が分業化される以前は、音楽家は総合的な存在であったと言う。
「バッハやモーツァルト、リストの時代には、それが当たり前でした。本来の音楽家の姿に立ち返りたいという思いがあります」
今年の活動は、まさにその理念を体現するものといえる。
リストへの回帰によって自らの原点を見つめ直すと同時に、新作や指揮といった領域の活動も実行している。今後、音楽家としての可能性を拡張していくことが今年の活動からうかがえる。
最後に、阪田の編曲によるラフマニノフ『ここは素晴らしい処』とリスト『忘れられたワルツ 第1番』を披露し、記者懇親会を締めくくった。
公演情報
全国公演日程
春のリサイタルツアー
4月24日(金)静岡 磐田市文化会館「かたりあ」
4月26日(日)山梨 八ヶ岳やまびこホール
5月1日(金)富山 高岡市生涯学習センターホール
5月4日(月)石川 金沢市アートホール
5月9日(土)大阪 ザ・シンフォニーホール
5月13日(水)東京 ヤマハホール
5月15日(金)長野 長野市芸術館リサイタルホール
5月17日(日)千葉 茂原市東部台文化会館
5月23日(土)愛知 宗次ホール
秋のリサイタルツアー
10月4日(日)山口 宇部市渡辺翁記念会館
10月18日(日)徳島 藍住町総合文化ホール 大ホール
10月24日(土)福岡 福岡市民ホール 中ホール
10月31日(土)山梨 山梨市花かげホール
11月1日(日)岐阜 多治見市文化会館
11月15日(日)大阪 住友生命いずみホール
「新作披露公演」 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 音楽堂シリーズ 第37回
7月18日(土)15:00 神奈川 神奈川県立音楽堂
新作 阪田知樹:声楽と管弦楽のための新曲(神奈川フィル委嘱作品)
※世界初演(指揮:阪田知樹、ソプラノ:森谷真理)
「新作披露公演」」群馬交響楽団
第623回 定期演奏会
11月21日(土)16:00 群馬 高崎芸術劇場 大劇場
上田定期演奏会 -2026秋-
11月22日(日)15:00 長野 サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 大ホール
新作 阪田知樹:新作委嘱 ※世界初演(指揮:米田覚士)
阪田知樹 ピアノ・リサイタル
11月10日(火)19:00 東京 東京オペラシティ コンサートホール
詳しくは:ジャパン・アーツ










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