E.T.A.ホフマン『砂男』: バレエ『コッペリア』/オペラ『ホフマン物語』の原作紹介〜オペラの原作#04
『砂男』あらすじ
2. 帰省するナターナエル
帰省したナターナエルは恋人クララとの再会を喜びます。ですが、二、三日経つと、ナターナエルの様子がおかしいことがわかってきます。
ナターナエルは陰鬱な顔をして、夢想にふけり、口を開けば悲観的でシニカルなことばかりを話すようになっていました。
「これは悪の化身であるコッペリウスに取り憑かれたからだ」
そう話すナターナエルに対して、クララは「デーモンは内面にしか存在しないものだ」と否定するのですが、ナターナエルは「悪魔」や「暗黒の力」といった神秘論を開陳し、二人の関係は徐々に悪化していきます。
ある日、ナターナエルは詩を書き始めます。
それは「暗い予感」をテーマにした詩でした。
固く愛情で結ばれた自分とクララを描く。そこへときおり、黒い魔の手が伸びてきて、花ひらきかけた歓びをむしりとってしまいそうな気配がする。ついにふたりが婚礼の祭壇のまえに立ったとき、恐ろしいコッペリウスがあらわれて、クララのやさしい目に触る。眼玉がナターナエルの胸に飛び込んできて、赤い火の玉のように胸を灼く。するとコッペリウスが彼をひっつかんで、燃えさかる火の環に投げこみ、火の環は疾風のように唸りをあげて回転しながら彼を拉し去る。そのとどろきは、白髪の巨人さながらに逆巻き泡立つ嵐の波濤のよう。だがその大音量の彼方からクララの声が聞こえてくる。
「わたしが見えないの? あなたはコッペリウスに欺されたのよ。あなたの胸を灼いたのは、わたしの目ではなくて、あなた自身の心臓の血のしずく。――ほら、見て、わたしにはちゃんと目がある!」
あれはクララだ、とナターナエルは思う――ぼくは永遠に彼女のものだ。するとこの考えが火の環をがっしり抑えこんだかのように、環は動きをとめ、嵐のとどろきは暗黒のい淵に消えてゆく。ナターナエルはクララの目をのぞきこむ。だがそこから親しげに彼を見ているのは、死神だった。
砂男/クレスペル顧問官』ホフマン
大島かおり訳 光文社古典新訳文庫
このぞっとする内容の詩をナターナエルは落ち着いた気分で書いていきました。丁寧に推敲し、磨きをかけ、手直しを続け、完成した後、クララの前で読んで聞かせました。
自作の詩を読んでいるうちにナターナエルは詩に心奪われていき、ぐったりと疲れてクララの手をとって、ため息をもらします。クララはナターナエルを抱き寄せ「常軌を逸したおとぎ話は火にくべてしまいましょう」と言います。
それを聞いたナターナエルは激高し、「きみはいのちのない自動人形だ」と叫び突き飛ばします。
それが元で、クララの兄ロータルとナターナエルは決闘沙汰になるのですが、クララが止めることで事なきを得ます。
『砂男』あらすじ
3. 晴雨計売りコッポラが現れる
下宿先に戻ると、家は火事ですっかり焼け落ちてしまっていました。
ナターナエルが不在の間、友人たちは書物などの荷物を運び出しており、空いている家にそれらを移してくれていました。そこの部屋は、たまたまスパランツァーニ教授の家の向かいで、窓の真向かいにはオリンピアの姿がはっきり見てとれることに気づきました。
ある日、ナターナエルの元に晴雨計売りのコッポラが現れます。
「晴雨計はいりませんよ」
そうナターエナルは断るのですが、コッポラは醜い笑みを浮かべて上着から大量の眼鏡をいくつも取り出していきます。
やめてくれ! と叫ぶナターナエルに「それなら上等なレンズはどうだ?」と、望遠鏡を取り出します。それは、なかなかきれいな造りの望遠鏡でした。
具合を確かめるために教授の家を覗いてみると、そこにはいつものようにオリンピアが窓際に座っているのが見えました。
以前から美しい女性だとは思っていましたが、望遠鏡を通してしっかりとその姿を見ると、眼が釘付けとなってしまいました。
ナターナエルは望遠鏡を買うことを決め、コッポラは去っていきました。
ナターナエルはクララに手紙を書いている途中でしたが、抵抗できない力に強いられるように望遠鏡でオリンピアの魅力的な姿を眺め続けました。
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