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【ダンス】プレビュー:マギー・マラン『May B』2022年11/19(土),20(日)埼玉会館/23(水・祝)北九州芸術劇場

マギー・マラン『May B』

11月19日(土),20日(日)埼玉会館 大ホール/
11月23(水・祝)北九州芸術劇場 中劇場

『May B』を楽しむヒントのいくつか

白塗りのインパクト

1970年代に起こったヌーヴェル・ダンスは、名の通り新しいダンスの潮流で1980年代に大変注目されました。

振付家マギー・マランはその代表的存在で、この『May B』は彼女のキャリアの初期、1981年に制作されました。

マギー・マラン©︎Michel Cavalca

©︎Hervé Deroo

ダンスは若い人によって踊られるもの、若さや美しい体のラインが打ち出されるものと思っていた既成概念をぶち壊す、くたびれてみすぼらしい老人(のように見える人たち)、しかも薄汚れた服を着て顔に白い泥を塗りたくったような白塗り! 一瞬で惹きつけられる大変なインパクトです。今でこそゾンビはすっかりおなじみでこういう風貌にはある程度免疫がありますが、当時この「白いゾンビ」はセンセーショナルであったに違いありません。

またこの作品は、不条理劇の代表として知られる作家/劇作家、サミュエル・ベケットの影響も大いにあります(『ゴドーを待ちながら』、『プレイ(芝居)』など)。実際にマランは制作前にベケットに会いに行っています。

※ヌーヴェル・ダンス … コンテンポラリー・ダンスの前身となったダンス、また、そのムーヴメント。1969年以降、フランスは文化の地方分権化政策を進め、文化事業への行政予算が増大した。これを機に様々な施設やカンパニーが生まれ、従来のクラシックバレエ、モダン・ダンスとは違う新しいダンスの在り方が模索された。

美しいシューベルトの音楽にのせて

©︎Hervé Deroo

異様なさまの人たちはカーニヴァルでマーチングバンドがパレードしているような音楽の中、ユニゾンで動き回り、外見とそのキレの良い動きのギャップに驚かされます。

『冬の旅』より終曲「辻音楽師」『死と乙女』『交響曲第4番 ハ短調「悲劇的」』『白鳥の歌』より「分身」など、全体を通して要となる場面に登場するシューベルトの楽曲。パーティー、小競り合いや官能的な動作などが繰り広げられる中で響くあくまでピュアで美しいシューベルトの音楽は、彼らの哀切さを際立たせます。

弱い立場にある人たちの灯す、確かな命の炎 ── この振付にシューベルトの作品を使用するということは考え抜かれた結論であろうと思われます。

ホームレスの歌う讃美歌

後半に流れる、ギャヴィン・ブライアーズ(イギリスの作曲家、コントラバス奏者 1943〜)の『イエスの血は決して私を見捨てたことはない Jesus’ blood never failed me yet』は歌われている意味を知ることによって、舞台上の彼らは「終わり」を迎えているのではと思えてきます。それは希望のある救いなのか、何か期待して待っていたことの終わりなのか、解散か、旅立ちか……。この曲で歌われる声は、ホームレスの老人が口ずさんでいた讃美歌で、それを録音しテープループ処理を施したものです(今でいうサンプリングのループ処理)。

この心を動かされるアンビエント系の曲が流れる中、彼らは変化していきます。彼らはどういう人なのでしょうか。どうしたかったのでしょう。すでに死んでいるのに気づかずにいるのか、難民か、病人か……。

コンテンポラリー・ダンスと言ってもこの作品の初演は1981年であり、すでに40年以上が経っています。日本では2003年以来19年ぶりの上演ということで、実際に鑑賞経験のある若い人はほとんどいないことでしょう。コンテンポラリー・ダンス作品の傑作であり、これからもずっと踊り継がれ古典となる力のある作品です。

古典になりうる作品には普遍性が備わっています。疫病や戦争 ── 数年前には予想もしなかった災難、分断、さまざまな格差などを経験している今の私たちの心にも響く作品であるということです。

今、『May B』を鑑賞して何が私たちの心に響くでしょうか、貴重な機会を逃さぬよう、劇場で体験しましょう。


マギー・マラン『May B』
2022年11月19日(土)、20(日)、23(水・祝)

11月19日(土)、20(日)
会場:埼玉会館 大ホール/ 開演:15時

★ チケット料金
[全席指定] S席 6,500円|A席 4,000円
※25歳以下料金有り(要身分証明書)
※未就学児入場不可

詳しくは:彩の国さいたま芸術劇場

…………………………………………………….

11月23日(水・祝)
会場:北九州芸術劇場 中劇場/開演:14時

★ チケット料金
[全席指定] 6,000円
※ペア割・24歳以下料金有り(要身分証明書)
※未就学児入場不可

詳しくは:北九州芸術劇場


公演プレビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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