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ウルトラシリーズとクラシック音楽③ ウルトラマンマックス15話『第三惑星の奇跡』×ショパン『別れの曲』 シン・ウルトラマン便乗短期連載

2022年5月、公開と共に大きな話題になった映画『シン・ウルトラマン』、同年11月にはAmazon Primeで配信がはじまり、DVD/BRも発売(2023年4月12日)が発表されました。

『シン・ウルトラマン』にも登場したゼットンは、天体制圧用最終兵器という新解釈によって地球全てを破壊しうる最強の存在として登場しました。

また、初代ゼットンが格闘戦でも必殺技の打ち合いでもウルトラマンを圧倒し、一方的に倒してしまった伝説の最終回(ウルトラマン第39話「さらばウルトラマン」1967年4月9日放送)は今も語り草です。

その後にも、ウルトラセブンの攻撃で一切傷つかなかったキングジョー、ウルトラ兄弟をブロンズ像にして完封したヒッポリト星人、ウルトラ兄弟を磔にして処刑寸前まで追い詰めたエースキラー……
ウルトラマン達を敗北させるほど強力な怪獣は、恐ろしいと同時に畏敬のような感情を抱かれ、高い人気を持つことも多いです。

ウルトラマン×クラシックの連載、最後は平成シリーズの『ウルトラマンマックス』に登場した、ウルトラシリーズでも歴代最強じゃないかと噂される怪獣のお話です。

ウルトラマンマックス15話『第三惑星の奇跡』×ショパン『別れの曲』

ウルトラマンマックスについて

ウルトラマンマックスは2005年7月〜2006年4月に放送された平成生まれのウルトラマンです。

それまでの平成ウルトラマンは昭和シリーズと異なる世界観を採用しており、過去作の怪獣や先輩ウルトラマンの再登場に消極的だったのですが、このウルトラマンマックスからエレキングなどの昭和シリーズの怪獣の再登場が積極的に行われるようになりました。

懐かしの怪獣たちがまた見られるとあって、放映当時は子供たちより、昭和シリーズに親しんだ大人たちが夢中になった、なんて話もあったようです。

災害ボランティアの青年トウマ・カイトが、一般市民にも関わらず果敢に怪獣に立ち向かった勇敢さをウルトラマンマックスに認められ、変身する力を授かり、防衛隊の隊員になって平和のために戦う物語です。

今回紹介する話は第15話。トウマ/ウルトラマンマックスと防衛隊の人々の絆が醸成されつつあるなか、直前の第13話・14話では昭和の最強怪獣として名高いゼットンとキングジョーに二連戦して勝利している、その翌週のことでした。


ウルトラマンマックス15話「第三惑星の奇跡」
~無敵の怪獣から地球を救うのは~


15話の物語は、一人の少女を中心に描かれます。

少女は過去の怪獣災害によって孤児になり、また視力を失ってしまいました。失明により大好きだったお絵かきもできなくなってしまったのですが、耳は聞こえるからと今度は音楽家を目指し、ピッコロを練習しています。
防衛隊のミズキ隊員と知り合いで、二人とも翌日に控えるピッコロの発表会を楽しみにしていました。

そんな折に、発表会の会場である公会堂近くに、宇宙から巨大な謎の物体が落ちてきます。
マシュマロのように見えるその物体は、実はウルトラシリーズ最強怪獣候補の一体、”完全生命体イフ”でした。

謎の物体を防衛隊が調査しますが、何も反応がなく、しかし邪魔なので焼却処分することが決まりました。

防衛隊の焼夷弾が直撃すると、謎の物体が変身します。物体は受けた傷を即座に再生すると、全身から炎を撒き散らす怪獣に変化しました。慌ててミサイルで攻撃すると、今度はミサイルを無尽蔵に打ち返す怪獣になってしまいました。

公会堂を守ろうとするミズキ隊員のピンチにトウマはウルトラマンマックスに変身、怪獣と応戦し、格闘戦の後に必殺光線!怪獣は爆発します……

しかし、怪獣はすぐにまた傷一つなく再生した上、さらに強力な姿に変身。今度はウルトラマンの必殺光線をコピーして、際限なく打ち返してくるようになります。謎の物体は、驚異的な再生能力に加えて、受けた刺激をコピーして打ち返す性質を持っているようでした。

自分の必殺光線を何発も撃たれてはウルトラマンでも手が出ず、最終的に公会堂は守り切れずに破壊され、ウルトラマンは撤退せざるを得なくなります。

手が付けられないまま暴れまわる怪獣に、防衛隊の隊長は地球滅亡を覚悟しながら、同じく撤退を余儀なくされます。

怪獣が暴れて燃え盛る街で、発表会もできなくなり、泣きながら破壊された町へ飛び出す少女。がれきの中、暴れ疲れたのか眠った怪獣の近くにたどり着いた少女は、怪獣に語り掛けます。

「怪獣さんは、音楽嫌い?私は、大好きなの……」

そうして、持ってきていたピッコロで、発表会で演奏予定だった『別れの曲』を奏で始めます。

すると、怪獣は攻撃ではない刺激、音楽を打ち返しました。
全身にトランペットやハープなどの楽器を生やして応え、ピッコロ一本のか細い旋律は、ハープやピアノ、女性の歌声までもが加わった幾重もの音色に変わっていきます。形状も禍々しい凶悪な怪獣から、楽器と音楽の女神像が融合したような、どこか神々しい姿に変わります。

暴れることなく音楽を奏でるだけになった怪獣の前に、少女を迎えに来たミズキ隊員とウルトラマンが現れました。

ミズキ隊員が車に少女を乗せると、ウルトラマンはその車を片手に宇宙へ飛び立ちます。まるでパイプオルガンのような楽器の塊になった怪獣も、ウルトラマン、そして演奏する少女を追って、いずこかへと導かれていきました。

ウルトラマンでも倒せなかった無敵の怪獣は、少女の音楽によって鎮まり、地球を去っていったのでした。

その光景を見た防衛隊の仲間は、いつか防衛隊を解散できる日を夢見ます。それは、本当の平和が訪れた日のことだから、と──

怪獣と音楽

少女の音楽によって無敵の怪獣は鎮まり、地球滅亡は防がれました。

手に負えない怪物を音楽や踊りでなだめるのは、ギリシャ神話のオルフェウスが冥界の番犬ケルベロスを竪琴で鎮めた伝承や、日本ではこぶとりじいさんが巧みな歌(または踊り)で鬼と打ち解けた物語などを筆頭に、世の東西を問わず普遍的に見られるものです。

オルフェウスの描かれた版画(1881年 )
出典:Wikimedia Commons


怪獣の名前のイフは、「畏怖」とも、英語でもしもを意味する「IF」とも捉えられます。

ウルトラマンでも敵わない無敵の怪獣への「畏怖」と同時に、最初に人類が攻撃でない刺激を与えていたならという後悔の「IF」。もしも少女が演奏しなかったらという恐ろしい「IF」。最後に防衛隊の仲間が願った、争いがなく、防衛隊がなくてもいい日の「IF」。たった二文字のシンプルな名前に、様々な意味があるように思えます。

イフが地球に現れた理由は劇中では明らかにされていません。相手の行動を真似て返す原始的な対話を試みる生物なのではないか、と考察する人もいる一方で、人類の野蛮さを絡めとる罠だったという考察もあります。

イフの意図はどうであれ、この物語においての最大のキーが「音楽」であることは確かでしょう。

音楽は時に、ウルトラマンの持つ勇気や正義の力を超えて、平和をもたらすことができるもの。そんなメッセージが込められているようです。

フレデリック・ショパン『別れの曲』

この物語で世界を救う役目を託されたのが、フレデリック・ショパンの『練習曲作品10第3番ホ長調』、日本では『別れの曲』の通称で知られる曲です。

CMや映画やドラマのBGMなどにもよく使われる有名な曲で、日本での通称はドイツ映画『別れの曲』で用いられたことに由来しています。


ショパンはこの曲について「二度とこんな美しいメロディは作れないだろう」と、自身の最高傑作と評するようなコメントを残しているほど。多くのピアニストがこの曲の演奏をしています。

もともとピアノ練習曲として作られたものなので、一般にピアノ曲として演奏されます。
そのため劇中で使われたピッコロのソロ演奏、怪獣が多くの楽器を加えた演奏はどちらもこの曲の一般的な編成ではありません。特に怪獣が演奏に加わってからの音楽は、本作のために編曲が行われたものと思われます。

この美しい曲は、欧州では「悲しみ」という意味の「Tristesse」の通称で呼ばれています。

怪獣を地球から立ち去らせる別れの意味だけでなく、怪獣によって家族、お絵かき、発表会の機会と多くを失った少女の境遇を思うと、劇中のこの曲が何重もの意味を持つように思えます。

まとめ

怪獣の名前や存在そのもの、そして少女が奏でた「別れの曲」。
このドラマはあらすじだけならイフの最初の姿のように一見シンプルです。ですが、多くの思いや願いを包んで、深く美しく描いてあり、ウルトラシリーズのファンからも屈指の名作と評されています。

さて、三回に渡って、ウルトラマンの中で用いられたクラシック音楽と、その物語を紹介いたしました。

ウルトラファンの方には、劇中で聞いたクラシック音楽をより深く。クラシックファンの方には、子供たちも見るウルトラマンの中でクラシック音楽がどう描かれているか、その一端を知っていただけたかと思います。

ポップカルチャーの中のクラシックの面白さ、その相乗効果を少しでも味わっていただけたら幸いです。


『ウルトラシリーズとクラシック音楽』1・2はこちらから


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オペラハーツの編集とライターを兼任。 小中でピアノ教室に通い、中高では吹奏楽部で打楽器を担当した程度の演奏経験。 クラシック以外にロック、EDM、ボカロ、ゲーム音楽なども好んで聴く。

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