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ニュース:新日本フィルハーモニー交響楽団 第646回定期演奏会 井上道義 ミュージカル・オペラ「A Way from Surrender 〜降福からの道〜」制作発表会(2022年10月24日)

新日本フィルハーモニー交響楽団 第646回定期演奏会
井上道義 ミュージカル・オペラ「A Way from Surrender 〜降福からの道〜」
制作発表会 (2022年10月24日)

(C)星ひかる

新日本フィルハーモニー交響楽団の第646回定期演奏会で、井上道義作曲のミュージカル・オペラ『A Way from Surrender 〜降福からの道〜』Op.4 が世界初演される。井上はこの作品の総監督で、指揮、脚本、作曲、演出、振付を手掛ける。
制作発表会では、主演する歌手3名、大西宇宙、小林沙羅、コロンえりかも登壇して作品中のアリアを披露し、華やぎのある会見となった。

指揮活動引退を前に、新たな一大発表

井上道義 (C)Yuriko Takagi

新作は井上の自伝的オペラ。彼は、2024年12月末で指揮活動から引退することを発表している。ステージに立つのではない音楽活動の始まりなのかと思っていたのだが、そんなことを知らせる会見ではなかった。
この作品はずっと前からあたためてきたもので、家族のこと、自分のこと、そして家族が生きた時代を刻んだまさに「ファミリー・ヒストリー」だった。深くて尊い人間の物語であることが語られたのだった。

自伝的作品

井上道義 (C)Yuriko Takagi

井上道義は画家、岡本太郎(タロー)として登場、そして第2幕では舞台は第二次世界大戦の頃のフィリピンとなり、若い父の正義と母のみち子が現れる。

実は正義は道義の実の父ではなく、道義の生物学的な父はアメリカ人であったが、そのことを本人に悟られることなく正義は道義を育て上げた。すでにその父は他界してしまっているが、父と子はあまり良い関係ではないままだったという。

テーマは「赦し」

(C)星ひかる

父の真実に対する理解が足りなかったという思いを作品にしたところで、父はすでに他界してしまっており伝えようがない。でも、井上はそれでいいという。

テーマは「赦し」。人を赦すだけでなく自分の足りない部分、能力不足をも赦して、前に歩いていく。

 父、正義はアメリカ生まれ、アメリカ育ちの日本人で、戦争が終わるまでたくさん不条理な目に遭った。今の平和な世の中では想像もつかないような経験をしてきたことも作品の中に記しておきたいという思いがあったようだ。

 私小説のような事実に基づいたフィクションが長い時間をかけてようやくオペラという芸術作品になり、お披露目することになった。

作曲することからの気づき

井上道義 (C)Yuriko Takagi

作品としてはまだ4作目と謙遜していたが、曲を作るようになって楽譜の見方が変わったという。それまでは、指揮者は音をいじってはいけないと作曲家を神格化していたけれども、彼らも人間であることに気づき、楽譜を深読みできるようになったと語る。作曲することから得た発見もたくさんあったとのこと。

オーディションで選ばれた歌手

みち子役:小林沙羅 (C)NIPPON COLUMBIA/正義役:大西宇宙 (C)Dario Acosta/ピナ役:コロンえりか

出演者はオーディションで選ばれた(母、みち子役は、井上の指揮でデビューした経緯のあるソプラノの小林沙羅に決まっていた)。父、正義にバリトンの大西宇宙、タロー(道義のこと)にテノールの工藤和真、フィリピン人のピナ役にソプラノのコロンえりかが務める。この大西、小林、コロンは制作発表会に登壇するだけでなく、それぞれ作品で歌われるアリアの一部を披露したのだった。

ミュージカルオペラ

タロー役:工藤和真/マミ役:宮地江奈(C)Yoshinobu FukayaauraY2
エミ役:鳥谷尚子(C)Toshiyuki Tanaka/朗読:大山大輔 (C)Yoshinobu Fukaya
発表会への登壇のなかった出演者もいずれ劣らぬソリストばかり。

この作品は新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会として上演される。「ミュージカルオペラ」とタイトルに付いているのは、すみだトリフォニーホールではマイクが使用され、ダンスシーンが盛り込まれ、さらに舞台としての照明が入るためだ。サントリーホールではそれらはなく、演奏会形式となる。ダンスは井上自ら振り付けるということで、ダンスシーンには大いに注目したい。

 なぜシンフォニーでなくオペラにしたのか、という質問に対し、井上は「(オペラで)書かざるを得なかった」と答えた。書くことによって赦しができた、とも。

 井上は、国の正義に翻弄されるということ、アイデンティティ、人を愛すること、赦すこと──誰にとっても不変で普遍のテーマを、とりわけドラマティックに生き抜いてきた家族と自身を題材にしてオペラに結実させた。世界初演にぜひ立ち会いたい。

記事トップ画像:(C)星ひかる


新日本フィルハーモニー交響楽団第 646 回定期演奏会
ミュージカル・オペラ 「A Way from Surrender ~降福からの道~」 op.4
〈トリフォニーホール・シリーズ〉(オペラ形式)2023年1月21日(土)
〈サントリーホール・シリーズ〉(コンサート形式)2023年1月23日(月)
会場:21日(土)すみだトリフォニーホール、23日(月)サントリーホール

開演:21日(土)14時、23日(月)19時
★ チケット料金
21日(土)4000円〜8000円
23日(月)4000円〜9000円
詳しくは:新日本フィルハーモニー交響楽団(21日)(23日)


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エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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