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レビュー:鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×杉本博司 withG.B.Piranesi 『ドン・ジョヴァンニ』2025年2月21日(金)目黒パーシモンホール 大ホール

日本人キャストが素晴らしい
秀逸な、フィラーと平野のバディ感
キャスト、演奏、美術、衣裳、上演場所……すべてが揃った極上の舞台

©K.Miura

端正な演奏登場人物すべてが主人公、にふさわしいキャスト

外部ホールでの上演を企画するORCHARD PRODUCE のオペラシリーズ第2弾、新制作の『ドン・ジョヴァンニ』は、素晴らしいプロダクションだった。

バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏はこのサイズの劇場だからこそ楽しめる繊細で揺らぎのない端正な演奏、時に力強さを見せる。木管楽器が美しく響いた。

登場人物全員が主人公、と言われるほどそれぞれに見せ場がありキャラクターも際立ち魅力的なこの作品、それにマッチしたキャストが組まれていた。

ドン・ジョヴァンニはクリストフ・フィラー、騎士長はディングル・ヤンデル、ドンナ・エルヴィラはカリーナ・ゴーヴァン、と3名が来日。彼らはもちろん見事に役を演じきったが、他の日本人キャストがすこぶる良くて、楽しませてもらった。

喪服姿で静かに父の殺害者を探しているドンナ・アンナを森麻季は気高く凛とした隙のない姿で魅了、ドン・オッターヴィオの山本耕平は美しくリリカルな歌唱で非常に目立っていた。マゼットは加耒 徹、ツェルリーナは高橋 維、この二人はどこか陽気で生き生きとしており、舞台上を動き回る姿はかわいらしく若々しい。そしてレポレッロの平野 和は達者で、物語を牽引していった。

無理のない演出、効果的な美術

©K.Miura

大劇場ではないので舞台は広くはない。演出・美術はスペースを有効に活用、背後にあるスクリーンを使ってジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージの版画が映し出され、場面によって変化していった。モノトーンの舞台でドン・ジョヴァンニの陰の部分がどんどん際立っていった。

そもそもドン・ジョヴァンニは善人ではなく、女と見れば口説かずにはいられない色事師だ。だがそれゆえ憎めないとか豪快とかいった陽のイメージで演出されることもある。けれどもこの舞台では、ドン・ジョヴァンニははっきり悪人として描かれていた。それは父を殺したのがドン・ジョヴァンニと知ったドンナ・アンナの静かな復讐心、同調する一途なドン・オッターヴィオ、諦念の感を抱くレポレッロなどから感じられた。

また、これもスペースの制約のせいかと思うが2階のサイドから舞台へ歌いかけるレポレッロ、ドンナ・エルヴィラや、オーケストラピットから舞台へ演奏者が舞台に上がり演奏したりと、工夫された動きのある演出はおもしろかった。

フィラーと平野のケミストリーで生まれたバディ感

©K.Miura

レポレッロの平野が非常に好演で、ドン・ジョヴァンニのフィラーより魅力的に見えてしまう瞬間も多々あった。ドン・ジョヴァンニはレポレッロをいいように利用して好き放題している。つまりレポレッロがいないと思い通りにはいかない。レポレッロは主人の悪行に嫌気がさしているものの主人だから言うことを聞くしかない。特に洋服を交換するあたり、主従関係にある二人ではあるが、互いが互いを必要としているその関係性がコミカルで、仲がいいわけではないけれど妙な仲間意識を感じさせ魅力的に映った。

最終のドン・ジョヴァンニの地獄堕ちはさほど派手さはなく、それまでの成り行きが自然で納得いく演出。最後の六重唱まで緊張感をはらんでおり、集中して鑑賞できた。このサイズの劇場で鑑賞する『ドン・ジョヴァンニ』、贅沢な気持ちを味わうことができた。


ドン・ジョヴァンニ(バリトン) クリストフ・フィラー
騎士長(バス) ディングル・ヤンデル
レポレッロ(バス) 平野 和
ドンナ・アンナ(ソプラノ) 森 麻季
ドン・オッターヴィオ(テノール) 山本耕平
ドンナ・エルヴィラ(ソプラノ) カリーナ・ゴーヴァン
マゼット(バリトン) 加耒 徹
ツェルリーナ(ソプラノ) 高橋 維

指揮 鈴木優人

管弦楽&合唱 バッハ・コレギウム・ジャパン

演出 飯塚励生

美術 杉本博司

衣裳監修 ソニア・パーク

衣裳デザイン ウィリアム・オウェソン

振付 渡辺レイ

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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