小川洋子『ホテル・アイリス』×ショパン『ピアノ協奏曲第1番』~小説を彩るクラシック#24
フレデリック・ショパン
『ピアノ協奏曲第1番』
この物語で唯一流れる音楽がショパンのコンチェルトです。
夏休みを利用して老紳士の甥がF島に遊びにやってきます。老紳士は料理を作り、マリと甥と三人でテーブルを囲むのですが、そのときラジオから流れてくるのが、ショパンのコンチェルトの1番です。
甥はある病気によって言葉が喋れないので、筆談によってマリとコミュニケーションを取ります。
〈ショパンだ〉
〈コンチェルトの一番。知ってた?〉
〈いい曲だと思わない?〉
マリは筆談によるコミュニケーションに気を取られてうまくショパンの音楽が頭に入ってきません。孤独と欠損を抱えた三人の間をコンチェルトは優雅に流れていきます。
非現実といってもいいような閉じられたリゾート地、そこにショパンという「現実」が、不自然に鳴らされます。
この物語の救いの無さ、深い孤独感を象徴する場面です。
芥川賞作家が描く衝撃作と謳われる『ホテル・アイリス』では、SM・加虐性愛という刺激的な面がクローズアップされますが、その隣には誰にでも持ちうる「孤独」が横たわっているような気がします。
興味がある方は是非読んでみてください。
参考文献
小川洋子(1996年) 『ホテル・アイリス』 幻冬舎文庫
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