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村上春樹『シドニーのグリーン・ストリート』×レオンカヴァッロ『道化師』、グレン・グールド ~小説を彩るクラシック#28

村上 春樹『シドニーのグリーン・ストリート』

そうだった。村上春樹の初めての短編集『中国行きのスロウ・ボート』が安西水丸の洒落たカヴァーで出版されたのは、1983年の初夏のことだった。僕たちは我れ先にと取り合い、結局、二冊買って、どっちがよけいボロボロにするか、競ったものだった。

こちらは村上春樹の処女短編集『中国行きのスロウ・ボート』の文庫本の裏表紙に書かれているコメントです。
表紙の安西水丸が描く皿に盛られた洋梨と相まって、瑞々しく、そして、わくわくとした気分になってくる素敵なコメントですね。
現在でも村上春樹の影響力は大きいですが、当時は新進気鋭のお洒落な作家という見方をされていたようで、この短編集に収められている作品からも当時のカルチャーの雰囲気が感じられると思います。
若者たちの群像劇から、ちょっと実験的なものや、シュルレアリスティックなものまで、幅広い作品がカラフルに収録されているのが特徴であり、魅力です。

『シドニーのグリーン・ストリート』

『中国行きのスロウ・ボート』の最終話に収録されているのがこちらの「シドニーのグリーン・ストリート」です。
初出は雑誌『海』の臨時増刊号「子どもの宇宙」1982年12月号に掲載。のちに文芸春秋刊行の『はじめての文学 村上春樹』にも収録されました。

タイトルの「シドニーのグリーン・ストリート」は映画『マルタの鷹』に出演した俳優のシドニー・グリーンストリートから取ったそうで、なかなか茶目っ気たっぷり。こちらの作品は、「年少者向けに書いた」という通り、ストーリーも楽しくわくわくするものになっています。

ストーリー

ごく正直に言えば、グリーン・ストリートはシドニーでもいちばん通りである。狭くて混みあっていて汚くて貧乏したらしくて嫌な匂いがして環境が悪くて古臭くて、おまけに気候が悪い。夏はひどく寒いし、冬はひどく暑い。

シドニーに住んでいる人が読んだらムッとしてしまいそうな感じですが、村上春樹が描く架空のグリーン・ストリートはこのような酷い場所のようです。

主人公はグレン・グールド(ピアニスト・作曲家)が好きな私立探偵の「僕」、大金持ちなのですが、お金が増えて増えてうんざりしてしまい、誰も知り合いが訊ねてくることがないグリーン・ストリートに事務所を構えています。
Glenn Gould 1
グレン・グールド 出典:Wikimedia Commons

探偵事務所を構えているといってもほとんど人は訊ねてきません。「僕」は、たいてい昼寝をしているか、ピザ・スタンドでビールを飲みながらウェイトレスのちゃーりーと世間話をしているか、のどちらかです。
ある金曜日の午後、羊の恰好をした小男が事務所にやってきます。

「私の耳をとりかえしていただきたいのです」

羊男と名乗る男は言いました。
話を聞くと、羊男の衣装についている耳を、羊博士という正体不明の存在に奪われてしまったから取り返してほしい、ということでした。

依頼を受けることにした「僕」が、ピザ・スタンドで「羊博士を探すことになったんだ」と相談すると、「羊博士だったら探すまでもないわよ」とちゃーりーは言います。なんと、羊博士はピザ・スタンドの常連だったのです。
近所に住んでいるはずだから電話帳で調べてみたら? と促されて半信半疑で調べてみると、羊博士の住所と電話番号はそこにちゃんと載っていました。

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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