• HOME
  • おすすめオペラ
  • カエサルとクレオパトラの恋、ヘンデルのオペラ【エジプトのジュリオ・チェーザレ】〜あらすじや曲を紹介〜

カエサルとクレオパトラの恋、ヘンデルのオペラ【エジプトのジュリオ・チェーザレ】〜あらすじや曲を紹介〜

目次

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』に登場するカストラートとは

カストラート、セネジーノ(フランチェスコ・ベルナルディ)出典:Wikimedia Commons

カストラートとは、声変わりする前の少年のうちに去勢された男性歌手のことです。彼らはボーイソプラノの高音と、成人男性の強靭な声を併せ持ち、常人離れしたテクニックを持っていました。

16世紀後半から女性が歌うことが禁じられていた教会の聖歌隊で高音パートを歌っていましたが、オペラの世界に進出すると美声とテクニックで聴衆を熱狂させ、18世紀のオペラに不可欠の存在となりました。映画『カストラート』のモデルとなったファリネッリなどスター歌手が続出しました。

ヘンデルが活躍したバロック時代(1600~1750)は、カストラート全盛期。ヘンデルは、当時抱えていた最高の歌手陣を初演キャストに想定して、オペラ『ジュリオ・チェーザレ』を作曲しました。
オペラ『ジュリオ・チェーザレ』に登場するカストラートの役は、主役のジュリオ・チェーザレ、悪役のトロメーオ、脇役のニレーノです。

バロック時代のオペラで大活躍したカストラートですが、社会状況の変化や人道的な問題から姿を消していきました。現在カストラートの役は、カウンターテナーやソプラニスタなど女性音域を歌う男性歌手や、メゾソプラノ、アルトなど低音域の女性歌手が代役することが多くなっています。

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』の初演歌手

ヘンデルの別作品、歌劇『フラーヴィオ』のカリカチュア。セネジーノ(左)、クッツォーニ(中央)、ベーレンシュタット(右)ベーレンシュタットは『ジュリオ・チェーザレ』初演のトロメーオ役を担っている。つまり『フラーヴィオ』でも『ジュリオ・チェーザレ』でもこの三人を初演歌手にしており、ヘンデルからの信頼が伺える。出典:Wikimedia Commons


ヘンデルは初演時、主役のチェーザレに当代随一のカストラート、セネジーノを当てています。セネジーノはファリネッリと人気を二分するほどの実力者でした。この大スターを破格の報酬でロンドンに引き抜いてきたのです。

初演のクレオパトラ役には、フランチェスカ・クッツォーニという、これまたヘンデルがイタリアから呼び寄せた超大物ソプラノが務めました。人の心を揺さぶる歌声を持った非常に優れた歌手でしたが、高飛車でわがままな性格でも知られています。ヘンデルはアリアを拒絶したクッツォーニを歌わせるために、腰を抱えて窓から突き出して脅したという話が伝わっています。

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』の見どころ~カストラート再現への挑戦!~

『ジュリオ・チェーザレ』初版スコア(1724年出版、ロンドン) 出典:Wikimedia Commons


オペラ『ジュリオ・チェーザレ』を観ていると、独唱のアリアが立て続けに歌われることに気付くと思います。ヘンデルの時代のオペラ・アリアの形式を、「ダ・カーポ・アリア」といいます。

「A-B-A」の形式になっていて、「A」は楽譜上では同じ歌詞とメロディです。しかし2回目の「A」で、即興で自由に装飾して超絶技巧を披露することになっています。現代の曲でいうと、1~2番のサビを普通に歌い、最後のラストサビにアドリブで、トリルを付けたり高音に上げたり、アレンジを加えて歌うというイメージが分かりやすいかもしれません。

前述のとおり、バロック時代のオペラは、カストラートの存在を前提に作曲されました。カストラートの声とテクニックを存分に聴かせることを、最重視していたのです。そのため、歌手個人のテクニックと音楽センスが大きくものをいうアリアが集結しています。バロック・オペラを歌う現在のオペラ歌手は、すでに存在しないカストラートの奇跡的な歌唱を再現するため研究を重ね、テクニックを磨いているのです。

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』には、カストラートの役どころの主人公、チェーザレだけでも8曲のアリアがあります。ヒロイン、クレオパトラを歌うソプラノにも8曲あり、アリア尽くしのオペラです。特に人気のアリアをご紹介しましょう!

カストラート役、ジュリオ・チェーザレ ──
「抜け目のない狩人は」
Va tacito e nascosto

第1幕、チェーザレがトロメーオと面会した際、悪事をたくらむトロメーオの下心を見抜いて皮肉を歌うアリアです。
弦楽器が慎重にリズムを刻む中、狩りの象徴であるホルンが歌と同じ旋律を奏でます。狩人が物影に隠れている様子を、楽器の音色や音楽を駆使して、目に見えるかのように描き出しました。チェーザレの冷静な一面を表現しています。カウンターテナーのレパートリーとして、コンサートで歌われることの多い人気曲です。

カストラートの役どころをどういった歌手が歌うかということは、バロック・オペラを上演する際の一つの懸案です。カウンターテナーなど女声音域を歌うことができる男性歌手を起用するか、メゾソプラノなど低い音域を得意とする女声歌手が男装して歌うか、プロダクションによって異なります。または、音域を下げてテノールなどの男声歌手が歌うこともあり、その方が現在の私たちには共感しやすいかもしれません。

クレオパトラの天上の音楽 ──
「優しい眼差しよ」
V’adoro pupille

第2幕、美徳の女神の姿に扮したクレオパトラが、チェーザレを官能的に魅了するアリアです。

ヘンデルはさまざまな挑戦的な試みを加えています。このアリアの直前に、本来のオーケストラとは別の第二の合奏団が舞台上に並びます。この二重オーケストラによる繊細な演奏の中、ゆったりと伸びやかなアリアがさざ波のように広がります。

ヘンデルは目にも耳にも特別な工夫を凝らし、このアリアの官能性と神秘性を高めようとしたことが分かります。

クレオパトラの嘆き ──
「この胸に息のある限り」
Piangerò la sorte mia

第3幕、囚われの身となったクレオパトラが、わが身の運命を嘆くアリアです。

オーケストレーションにはヴァイオリンとフルート(古楽器はフラウト・トラヴェルソ)が使われ、この2つの組み合わせが独特の柔らかさをもった物悲しい音色を生み出しています。ソプラノの抒情的な声と絡み合い、クレオパトラの深い心の内奥に触れるかのようです。
この曲もソプラノ歌手のコンサートなどで、単独で演奏されることの多い曲となっています。

二重唱 ──
「悲しむために生まれて」
Son nata a lagrimar

最後に、オペラ『ジュリオ・チェーザレ』の美を極めつくした二重唱をご紹介します。

1幕最終、トロメーオによって連行されるコルネーリアとセストが絶望の中で歌います。コルネーリアとセストは、いずれもメゾソプラノかアルトの女声です。
ポンペーオの死を軸に展開していくこのドラマ。歌はチェーザレとクレオパトラがメインですが、ストーリーはコルネーリアとセストが常に動かしていると言えます。オペラ『ジュリオ・チェーザレ』のストーリーにおいては、この2人が主人公なのです。ヘンデルはまさに物語が動き出す1幕最後のこの場面に、この美しい二重唱を配置しました。

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』公演予定

新国立劇場で『ジュリオ・チェーザレ』が公演されます!
期間は10月2日(日)~10日(月・祝)の4日間。
日本語字幕付きでじっくりオペラ『ジュリオ・チェーザレ』を鑑賞できます!


新国立劇場オペラ『ジュリオ・チェーザレ』
2022年10月2日(日)〜10日(月・祝)
会場:新国立劇場 オペラパレス

開演:
10月 2日(日) 14:00
   5日(水) 17:00
   8日(土) 14:00
  10日(月・祝) 14:00

★ チケット料金
一般 5,500円〜27,500円

詳しくは:新国立劇場オペラ


次のページ:作曲家、ヘンデルの略歴・曲紹介

神保 智 じんぼ ちえ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース声楽科在学中。子どものころから合唱団で歌っていた歌好き。現在は音楽大学で大好きなオペラやドイツリートを勉強中。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。