クリスマスシーズンの定番『くるみ割り人形』のストーリーや見どころを解説!2022年〜2023年の舞台も紹介
4. バレエ『くるみ割り人形』の振付師・演出家ごとの違い
1892年に生まれたバレエ『くるみ割り人形』は、バレエの名作としてさまざまな振付師・演出家が演出を手がけてきました。
「クリスマスに起こる不思議な物語」という大まかな流れは変わりませんが、演出によって細かな設定が異なります。
例えば、初演のレフ・イワノフ版では、子どものダンサーがクララを、大人のダンサーが金平糖の精を踊っていたのに対し、1984年発表のピーター・ライト版では、クララと金平糖の精を別々の大人が演じています。
それでは、代表的な演出を見ていきましょう。
4.1【初演】レフ・イワノフ版
『くるみ割り人形』の初演の振付を手がけたのは、レフ・イワノフです。1892年、マリインスキー劇場で初演が行われました。
先述のとおり、レフ・イワノフ版では、子どものダンサーがクララを、大人のダンサーが金平糖の精を踊ります。初演時は、舞踊学校の生徒がクララを踊りました。
観客には好評だったものの、「主役の金平糖の精が第2幕まで登場しないこと」「お菓子の国で終演してしまい、クララのその後が分からないこと」などから新聞評はあまりよくなかったと言われています。
4.2 アレクサンドル・ゴルスキー版
ゴルスキー版の『くるみ割り人形』は、ボリショイ劇場のバレエマスター(ダンサーの指導を行う役職)アレクサンドル・ゴルスキーによって制作され、1919年に発表された演出です。
原作である『くるみ割り人形とねずみの王さま』に近づけるため、金平糖の精と王子の役をなくし、クララとくるみ割り人形がお菓子の国で王位に就くという結末が取り入れられました。
4.3 ワシリー・ワイノーネン版
ワイノーネン版は、1934年にボリショイ劇場で上演された演出です。
ボリショイ劇場では、ワイノーネン版の発表までにヒョードル・ロプホーフによる改訂が2度行われています。ロプホーフによる改訂では、主人公の少女は「マーシャ」と名付けられ、大人のダンサーが演じるようになりました。
ワイノーネン版の第2幕では、マーシャとくるみ割り人形(王子)がパ・ド・ドゥ(男女2組の踊りのこと)を踊ります。
ワイノーネン版は、現在ロシアにおけるスタンダードな演出です。マリインスキー・バレエ団がレパートリーとしています。
4.4 ジョージ・バランシン版
ジョージ・バランシン版は、1954年にニューヨーク・シティ・バレエ団で上演された演目です。
主人公の少女の名前は「マリー」で、子どものダンサーが演じます。
バランシン版の『くるみ割り人形』は子役の出演が多いのが特徴です。主人公マリー以外にも、マリーの兄のフリッツ、クリスマスパーティーに参加する子どもたち、ネズミと戦う兵士、道化、天使など、8〜12歳の子どもが1公演につき約60~70名出演します。バレエを習うたくさんの子供たちに大舞台の経験をさせられる点でも素敵な演出です。
4.5 ユーリー・グリゴローヴィチ版
ユーリー・グリゴローヴィチ版は、1966年にボリショイ劇場で発表された演出です。
グリゴローヴィチ版では、主人公の少女マリーも金平糖の精も1人のダンサー(大人)が演じます。
くるみ割り人形の真っ赤な衣装と金平糖の精の真っ白な衣装のコントラストが印象的です。落ち着いた色合いの舞台セット、昇降装置(セリ)を使った演出など、舞台装置にも注目してみてください。
4.6 ピーター・ライト版
英国の振付家 サー・ピーター・ライトの演出は、1984年に英国ロイヤルバレエ団で上演されたものと、1990年にバーミンガム・ロイヤルバレエ団で上演された新版の2つがあります。
1984年のバージョンは、原作小説『くるみ割り人形とねずみの王様』の設定が取り入れられているのが特徴です。くるみ割り人形はドロッセルマイヤーの甥で、呪いでくるみ割り人形の姿に変えられたという設定になっています。
甥にかけられた呪いを解くために、ドロッセルマイヤーはくるみ割り人形をクララに託すのです。クララの活躍によって、くるみ割り人形は元の姿を取り戻します。お菓子の国の冒頭では、元の姿に戻った甥が、クララの活躍をお菓子の国の人々に話すマイム(動きでセリフを表すこと)が印象的です。
1990年のバージョンでは、バレリーナを目指す少女クララがドロッセルマイヤーによって不思議な世界に導かれ、憧れのバレリーナ(金平糖の精)に会うというストーリーです。
なお、1984年/1990年バージョンのいずれも、クララと金平糖の精は別々の大人のダンサーが演じます。
4.7 ルドルフ・ヌレエフ版
1985年にパリ・オペラ座バレエ団で上演されたヌレエフ版の『くるみ割り人形』は、従来の『くるみ割り人形』とは異なるストーリーです。
なんと、ドロッセルマイヤーと王子が1人2役!主人公クララが密かに憧れる魔術師・ドロッセルマイヤーが、クララの夢の中で王子に変身し、クララと踊るというストーリーです。
ヌレエフ版の『くるみ割り人形』はステップが多いことが特徴です。おとぎの国(ほかの演出ではお菓子の国とされる場面)のグラン・パ・ド・ドゥでは、ゆっくりとした音楽の中に、さまざまなパ(バレエの技のこと)が詰め込まれています。
ほかの演出ではなかなか見ない、難しい音の取り方という印象を受けました。
4.8 モーリス・ベジャール版
1998年発表のモーリス・ベジャール版も、従来の『くるみ割り人形』とは異なるストーリーです。
主人公は少女クララではなく、ベジャールの少年時代の分身「ビム」。チャイコフスキー作曲の『くるみ割り人形』の音楽に乗せて、クラスレッスンや妹と遊ぶシーンが盛り込まれるなど、ベジャールの自伝的作品となっています。
愛猫家であるベジャールが飼い猫「フェリックス」の役を設け、日本人ダンサーの小林十市さんが演じました。小林さん扮するフェリックスがタキシード姿の男性を引き連れて踊る「葦笛の踊り」は軽快さと素晴らしいテクニックが見物です。
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