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レビュー:パシフィックフィルハーモニア東京 第152回定期演奏会 2022年10月4日(火)サントリーホール

パシフィックフィルハーモニア東京
第152回定期演奏会
2022年10月4日(火)サントリーホール

衝撃だった角野隼斗(Cateen/かてぃん)による日本初演
照明・映像の演出を得て迫力の『惑星』

ソリストに角野隼斗を迎えたイギリスの現代作曲家トーマス・アデスの『ピアノとオーケストラのための協奏曲』日本初演と、ホルストの組曲『惑星』作品32を全曲演奏するというチャレンジングなプログラム。

現代作品にこれほど熱く興奮するとは

現代音楽作品の日本初演と文字面は堅いが、人気ピアニスト角野隼斗が登場するとあって会場のサントリーホールは華やかなムードに包まれていた。イギリスの現代作曲家、トーマス・アデスの『ピアノとオーケストラのための協奏曲』を角野隼斗で上演しようと企画した芸術監督の飯森範親以下、パシフィックフィルハーモニア東京のスタッフのセンスの良さに脱帽する夜となった。

3楽章構成のこの作品、リズムが複雑、音も溢れんばかりで第1楽章が終わった時点で、どれほど難曲であるかを見せつけられた。ステージ上で大変なことが起きていることを観客もよく理解していて、最後まで緊張して聴いていた。結果、角野はこれまでボーダーレスな活動で経験してきたことが何一つ無駄ではなかったと証明するかのような、誰にもできない角野だけのトーマス・アデスの『ピアノとオーケストラのための協奏曲』となってあの日のサントリーホールに鳴り響いた。

続くアンコールの『アイ・ガット・リズム』もアデスの曲の続きであるかのようなアデスの片鱗を盛り込んだ心憎い演奏を披露。

アデスの『ピアノとオーケストラのための協奏曲』の初演ピアニスト、キリル・ゲルシュタインはバークリー音楽院でジャズ・ピアノを学んでおり、この作品はクラシック・ピアノのメソッドだけでは弾きこなせない曲。ベースがクラシック・ピアノでかつジャズのグルーヴ感を体得している角野は、一音一音が美しくクリアで、乱れることのないコントロールの効いた弾けっぷりは圧倒的だった。
ステージ上で弾けるために、どれほどの準備がなされたことだろう。 この作品は20分程度と規模としては大きくはないのだが、音響のダイナミックかつ物凄く複雑な変容ぶりにもう満腹、熱くなりすぎない端正なオーケストラにも感心した。

まやかしでなく相乗効果を生む前向きな演出

パシフィックフィルハーモニア東京は演奏中に照明や映像を融合させた演出を取り入れることがある。今回の組曲『惑星』全曲演奏でそれはとても効果的だった。
ホルストの代表作であるもののこの作品が全曲演奏される機会は少なく、火星から海王星まで全7曲、照明やプロジェクションマッピングが使われて演奏された。

この作品には、惑星の名前のあとにサブタイトルがそれぞれつけられている。『火星─戦争をもたらす者』、『金星─平和をもたらす者』といった具合。これは作曲当時、ホルストが占星術に関心を持っていたためで、たとえば英語で火星を指すMARS/マーズはローマ神話のマルス(ギリシャ神話のアレス)という軍神に由来する。この日の照明、プロジェクションマッピングもそのサブタイトルを意識していたのではと思われた。
『木星―快楽をもたらす者』は突出して美しかった。吹奏楽の演奏で聴く機会も多いがオーケストラの深く豊かな響きがホール中に満たされ聴き入った。
この照明、映像の演出と相性の良い作品がまだたくさんある。これからも挑戦していってほしい。


次回のパシフィックフィルハーモニア東京×角野隼斗コラボ公演が決定!続報をお楽しみに!

https://twitter.com/ppt1990_tnco/status/1578307011749457920?s=20&t=TzLuPY8DD6Z_uZJOQn9h8A

公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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