動乱の時代のロシア、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』〜あらすじや曲を紹介〜
ムソルグスキーの名曲
ムソルグスキーは、ロシアそのものを描くことに極端にこだわった一方、音楽としての心地よさや美しさといった配慮をしませんでした。ロシア国内では十分な評価が受けられず、『展覧会の絵』や『禿山の一夜』といった世界的人気曲でさえ、生前には演奏されていません。
当時のロシアの音楽界では、ドイツやフランスなど西ヨーロッパの音楽への憧れの方が強く、ロシア語の響きやロシアの精神を描くことに執心したムソルグスキーの音楽が理解されるには時間がかかりました。
一方、ムソルグスキーの音楽は国外で高く評価されました。ドイツで作曲家フランツ・リスト(1811-1886)がムソルグスキーの歌曲集を披露し、一気に注目が集まります。ドビュッシーはムソルグスキーの音楽を熱心に研究し、オペラ『ペレアスとメリザンド』の誕生につながりました。ムソルグスキーが目指した国民的音楽の中に、時代を切り開く斬新さがあることを見抜いたのです。
最も有名な代表作!ピアノ組曲『展覧会の絵』
どこかで聴いたことがあるはず!オーケストラ演奏で聞いたことがある方が多いと思います。
ムソルグスキーはピアノ曲として作曲しましたが、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)が1922年、オーケストラ用に編曲して世界的に有名になりました。今日でもオーケストラ演奏の方が主流になっています。
ラヴェル編曲オーケストラ版
ゲオルク・ショルティ指揮、シカゴ交響楽団1990年
39歳で夭折した建築家兼画家の親友ヴィクトル・ハルトマン(1834-1873)の遺作展覧会で展示されていた、10点の作品の印象を音楽にしたものです。それぞれを「プロムナード」と呼ばれる間奏曲でつないでいるのが特徴的です。
『展覧会の絵』は、ムソルグスキー生前に一度も演奏されず、没後の1886年、作曲仲間のニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)が改訂して出版しました。
『展覧会の絵』は別途、特集を組んでいますので、もっと詳しくはこちらへどうぞ。
現代カルチャーへの影響が大きく、ロックなどの音楽にも姿を変え、親しまれている曲です。
「キエフ市の門の設計図」ハルトマン画
(『展覧会の絵』の「キエフの大門」に関連)
出典:Wikimedia Commons
映画曲にも!管弦楽曲『禿山の一夜』
ディズニー映画『ファンタジア』演奏(『禿山の一夜』は1時間50分あたりから)
ディズニー映画『ファンタジア』(1940年公開、日本では1955年)の挿入曲でも有名な、ムソルグスキーの管弦楽曲です。悪魔や妖怪が踊る不気味な様子が目に見えるようです。
ムソルグスキーは1867年、管弦楽曲『禿山の聖ヨハネ祭の夜』を完成させました。「聖ヨハネ祭」の前夜、禿山に死の神チェルノボーグが魔女や精霊たちを集めて大騒ぎし、夜明けとともにいなくなるという、キリスト教とスラブ神話の伝承が混じったロシアの民話が楽想の元になっています。『ファンタジア』でも同様のストーリーが描かれています。
『禿山の聖ヨハネ祭の夜』(『禿山の一夜原典版』)
クラウディオ・アバド指揮 EUユース管弦楽団 2019年
聞き比べると、『ファンタジア』のものとはずいぶん印象が違うことに気付きます。『ファンタジア』での演奏など、現在一般に普及している『禿山の一夜』は、リムスキー=コルサコフの改編が加えられているためです。
この曲もムソルグスキーの生前に演奏されず、ムリムスキー=コルサコフがやはり没後の1886年に出版しました。ムソルグスキー周辺の作曲仲間は、皆で作品を仕上げるというチームワークを組んでいました。ムソルグスキーの作品が今日まで残されたのも、このチームワークのおかげと言えます。
まとめ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』は、ロシアの精神を集約したムソルグスキーの傑作オペラです!
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』を、ぜひお楽しみください!
オペラって、素晴らしい!
参考文献
「歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』全曲 クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1993年収録CD付属対訳」
「歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』全曲 カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1970年収録CD付属対訳」
『名作オペラブックス24 ムソルグスキー ボリス・ゴドゥノフ』音楽之友社(1988年)
桑野隆(2000年)『オペラのイコノロジー1 ボリス・ゴドゥノフ』ありな書房
田辺佐保子(2003年)『プーシキンとロシア・オペラ』未知谷
一柳富美子(2007年)『ムソルグスキー「展覧会の絵」の真実(ユーラシア・ブックレットNo.115)』東洋書店
『スタンダード・オペラ鑑賞ブック5 フランス&ロシア・オペラ+オペレッタ』音楽之友社(1999年)
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