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動乱の時代のロシア、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』〜あらすじや曲を紹介〜

目次

オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』のあらすじ
〜策謀渦まく世界に生きる、人間のリアル〜

オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』はたくさんの登場人物がいますが、ほとんどの人物が1シーンや瞬間的に登場することが多いのが特徴的です。とはいえ、どの登場人物も個性強烈!ロシアに暮らす様々な身分や立場の人々を、オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』で広く描こうとしたことが分かります。

オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』のあらすじを知って、実際のオペラを鑑賞してみましょう!

ボリス・ゴドゥノフ あらすじ
✳︎ プロローグ ✳︎

「ノヴォデヴィチ女子修道院の内部装飾」出典:Wikimedia Commons
このファイルはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承 4.0 国際ライセンスのもとに利用を許諾されています。

16世紀末のロシア。ツァーリ(皇帝)の摂政であった主人公のボリス・ゴドゥノフが、ツァーリの血筋であるドミトリー皇子殺害の黒幕であるということを前提に、オペラは始まります。

【モスクワ近郊ノヴォデヴィチ修道院の庭】

後継者がいないままツァーリ、フョードル1世が病死。警吏長ニキチッチが民衆を脅して、摂政のボリス・ゴドゥノフが新しいツァーリの座に就くように嘆願させています。貴族会議書記官のシチェルカーロフが現れ、ボリスがツァーリの位に就くことを拒否していると人々に知らせます。ロシア正教会の巡礼の一行がボリスのツァーリ就任を願い、合唱しながら修道院に入っていきます。ニキチッチは民衆に明日クレムリンに集まるように命じ、警吏も民衆も散り散りに解散。

【モスクワのクレムリン広場】

祝賀の鐘が鳴り響き、聖堂内ではボリス・ゴドゥノフのツァーリ戴冠式が執り行われています。シュイスキー公爵がボリスに万歳を叫び、民衆が新ツァーリを称えて合唱。ボリスは悩みながら「わが魂は痛む」とモノローグを歌い、自分の治世を神に祈ります。民衆の合唱のうちにプロローグは終わります。

ボリス・ゴドゥノフ あらすじ
✳︎ 第1幕 ✳︎

【チュードフ修道院】

歳月が流れ、老修道僧ピーメンはろうそくの明かりの下で年代記を記しています。ピーメンは「もう一つ物語を書けば私の年代記は終わる」と独白。眠っていた年若い僧のグリゴリーは、夢にうなされ目覚めます。ピーメンは、ドミトリー皇子がツァーリの座を狙うボリスに殺害され、皇子が生きていればグリゴリーと同い歳であったことを話します。朝の鐘が鳴りピーメンが部屋を出たあと、グリゴリーは裁きがボリスに下るように祈ります。

【リトアニア国境付近の旅籠屋】

旅籠屋の女主人が縫物をしながら、「雄鴨の歌」を歌っています。逃亡僧のヴァルラーム、ミサイールとともに、修道院を脱走したグリゴリーが旅籠屋に入ってきます。ヴァルラームは、「その昔、カザンであったこと」を景気よく歌い、続けて「奴は馬で走る」を酔っ払いながら歌います。グリゴリーは女主人に、リトアニアへの道を尋ねます。

ニキチッチら警吏の一行が入ってきます。異端者を探していると逮捕状を取り出しますが、警吏も逃亡僧も字が読めません。グリゴリーは自分が追われていることを察して、わざと間違えて逮捕状を読み、ヴァルラームを逮捕させようとします。しかし嘘がばれ、窓から逃げ出します。

ボリス・ゴドゥノフ あらすじ
✳︎ 第2幕 ✳︎

「ツァーリの御所として使用されていたテレムノイ宮殿内部装飾」出典:Wikimedia Commons
このファイルはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 非移植ライセンスのもとに利用を許諾されています。

【モスクワのクレムリン宮殿の居間】

ボリスの娘クセーニヤは、死んだ婚約者の肖像の前で「あなたはどこ、私の婚約者」と悲しみを歌います。乳母は「蚊の歌」を歌い、弟のフョードルもクセーニヤを慰めます。ボリスが現れ、クセーニヤを優しく励まし下がらせます。ボリスは6年間の統治に疲れ切って、モノローグ「最高の権力を手に入れたが」を歌います。家族の不幸や、飢饉、疫病に苦しめられているのは、自分のせいだと苦悩していました。

侍従がシュイスキー公の来訪を告げます。フョードルが「おうむの歌」を歌い、ボリスが賢い息子をほめていると、シュイスキー公が入室。リトアニアにドミトリー皇子を名乗る者が現れたと告げます。ボリスはシュイスキー公に、死んだ子どもは確かにドミトリー皇子であったのか尋ねます。シュイスキー公は皇子の死の様子を冷ややかに語り、耐えかねたボリスは公を下がらせます。一人になったボリス、「うーん、苦しい!息をつかせてくれ」(時計の場)と叫び、殺されたドミトリー皇子の幻影を見て怯えます。

ボリス・ゴドゥノフ あらすじ
✳︎ 第3幕 ✳︎

「サンドミェシュ城」出典:Wikimedia Commons
このファイルはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承 4.0 国際ライセンスのもとに利用を許諾されています。

(版によって、この幕がないものもあります)
【ポーランドのサンドミェシュ城内】

サンドミェシュの将軍の娘マリーナは、「偽ドミトリー」となったグリゴリーがツァーリの座に就けば、その妻はロシア皇后として君臨できると野心を抱いています。マリーナは、偽ドミトリーとの結婚を夢見て歌います。

イエズス会士のランゴーニは、ロシアにカトリックを広めようと画策しています。ランゴーニはマリーナに、偽ドミトリーを誘惑してロシアにカトリックを広めるよう命じ、マリーナは戸惑いながらも従います。

【サンドミェシュ城内の庭園】

偽ドミトリーは、一目見たマリーナに恋焦がれていました。ランゴーニが現れ、マリーナも愛していることを伝え、カトリックに改宗すれば仲を取り持つとそそのかします。

偽ドミトリーはマリーナと出会い、愛を告白しあって二重唱に。しかし、二重唱の途中で口論になります。マリーナは偽ドミトリーの心意気を確かめようとしたのでした。偽ドミトリーのプライドの高さを知って、マリーナは愛を受け入れます。

ボリス・ゴドゥノフ あらすじ
✳︎ 第4幕 ✳︎

モスクワ、赤の広場、聖ワシリー大聖堂

【モスクワ、聖ワシリー大聖堂前】
(版によって、このシーンがないものもあります)

飢えた民衆が広場にあふれています。農夫ミチューハをリーダーとする一群が、生きていたドミトリー皇子がモスクワに向かっていると話します。子どもとともに聖愚者(詳しくは後述)が現れます。

聖堂から出てきたボリスに、民衆がパンを求めて群がります。聖愚者は子どもに銅貨を奪われて泣きわめき、ボリスが事情をたずねると、聖愚者は「幼い皇子を斬り殺したように、あの子どもたちを殺してくれ」と子どものようにわめき頼みます。ボリスは自分のために祈るよう頼み返しますが、「ヘロデ大王(※)のようなお前のために祈ることはできない」と聖愚者は言います。

※ヘロデ大王は紀元前のユダヤの王。地位を固めるため政敵などの粛清を行ったほか、“新たにユダヤ人の王となる子”=”自らの王位を奪う者”イエス・キリストがベツレヘムに生まれたと占星術で知り、ベツレヘムの二歳以下の幼児を皆殺しにした伝承があり、それに準えた皮肉と考えられる

【モスクワのクレムリン宮殿の大広間】

貴族会議では、偽ドミトリーへの対処について議論中。シチェルカーロフが票決をとろうとすると、シュイスキー公が遅れて入室。ボリスがドミトリー皇子の幻影を見て狂乱状態に陥っていたところを覗き見たと、一同に語ります。そこに、幻影におびえながら狂乱したボリスが入室。シュイスキー公はピーメンが目通りを願っていることを伝え、部屋に通します。

ピーメンは「ある日、夕暮れ時に」とドミトリー皇子の墓で盲人が視力を取り戻した奇跡を話します。ピーメンの話を聞きながらボリスは苦しみだし、息子のフョードルを呼びます。「さらば、わが子よ、わしはもう死ぬ」(死のモノローグ)を歌いながら、鐘が鳴り死を悟ったボリスはフョードルを次期ツァーリに指名。聖歌隊の合唱の中、息絶えます。

【リトアニア国境近くのクロームイ近郊の森】
(版によって、このシーンがないものもあります)

暴徒となった群衆が、貴族フルシチョフを捕らえ合唱しています。子どもが聖愚者をいじめています。逃亡僧のヴァルラーム、ミサイールも加わり群衆の合唱が激しさを増す中、イエズス会士のラヴィツキとチェルニコフスキがカトリックの聖歌を歌いながら歩いてきます。ヴァルラームとミサイールが扇動して、イエズス会士を縛り首にしようとします。偽ドミトリーが現れ、「自分こそがツァーリである」と宣言。熱狂する群衆とフルシチョフを引き連れ、モスクワへ向けて進軍していきます。

遠くで警鐘が鳴り、大きな炎が上がっています。森に残された聖愚者は「流れよ、苦い涙」を歌い、ロシアに迫る闇の未来を予言します。


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神保 智 じんぼ ちえ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース声楽科在学中。子どものころから合唱団で歌っていた歌好き。現在は音楽大学で大好きなオペラやドイツリートを勉強中。

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