『巨匠とマルガリータ』ウクライナの小説家ブルガーコフの長編に鳴るオペラ~あらすじと略歴、芸術への影響~小説を彩るクラシック#21

ピョートル・チャイコフスキー
オペラ『エフゲニー・オネーギン』
編集長ベルリオーズはヴォランドの予言「あなたは首が切断されて死ぬでしょう」の通り、電車に撥ねられて宣言通りの死を迎えます。
それを目撃した詩人イワンは、「こんなことは予言でもなんでもなくあいつ(ヴォランド)が仕組んだことに違いない」と思い、ヴォランドを探しにいきます。
こうして、イワンはアルバート街の裏通りの迷路の奥深くにもぐりこみ、絶えず、おずおずと横目であたりをうかがったり、ときには玄関口に身を隠したり、信号のある交差点や外国大使館の豪奢な正面玄関を避けたりしながら、壁に隠れるようにして、こっそりと通り抜けていった。
この困難にみちた行程のあいだじゅう、ずっと耳につきまとい、なぜか言いようもなくイワンを悩ませていたのは、タチナーヤに寄せる愛を歌いつづけている重苦しいバス歌手の声の伴奏をする、いたるところから鳴り響いてくるオーケストラの音であった。
『エフゲニー・オネーギン』は文豪プーシキンの原作をもとに作られたロシアを代表するオペラです。
主人公のオネーギン(バリトン)と、ヒロインであるタチアーナ(ソプラノ)のすれ違う恋愛を主題に描かれる物語です。
タチナーヤに寄せる愛を歌いつづけている重苦しいバス歌手というのは、グレーミン公爵のことで、原作では名前が与えられていません(N公爵とされている)。ストーリーに関与はするのですが、ポジション的には端役です。
悪魔ヴォランドを追跡するこの場面で、イワンの耳に鳴り響くグレーミンのバスは、まるで「お前はただの端役にすぎない」と、暗示しているかのようです。事実、イワンの追跡は徒労に終わり、その後、精神に異常をきたしてしまいます。
そして、オペラの場面転換のように、この物語の主人公である「巨匠」と「マルガリータ」が登場して、歴史を巻き込んだ愛の物語がスタートしていきます。
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