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<レビュー>新日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール・シリーズ 第640回定期演奏会

さて、休憩明け。再びマエストロ登場。さっと空気が締まる。

二曲目、セザール=フランクの交響曲ニ短調M.48。19世紀、交響曲においてドイツ・オーストリアに後れを取っていたフランス音楽界で、初めて交響曲の形式を完備させたと言われるこの作品。

静かで重々しい始まりを聴いて、目をつぶってしまったが、これはフランス人が作ったドイツ音楽か(あくまでもドイツ音楽の一面を述べたに過ぎない個人的感想であることを断っておく)、数学的で瞑想的な難解なシンフォニーかと思いつつ、思いを巡らせながら聴いていくと、いつの間にか後のラヴェルを思わせるようなフランス音楽が見え隠れし、第2楽章はまさにフランス音楽(ワグナー的だという向きもあるが)。そう聴こえるのは私だけだろうか。

コールアングレ(イングリッシュホルン)のメロディーが特徴的なこの楽章、いや、全ての楽章を通して転調が独特で、この辺りが軽やかなフランスの色を感じさせるのかもしれない。とても整理された美しい音楽だという思いが胸に湧く。

そして第3楽章。今までの主題がそろって登場。いくつかの糸がより合わされて、だんだん大きなうねりになっていく。コンサートマスターが腰を浮かせて踊るように弾いている様子とも相まって、これが春の喜びかと納得させられる。
心が空に持ち上げられるような高揚感。ブラボー!この天上の音楽をもっと聴いていたいと思う。やはり良く音の鳴る素晴らしい演奏!フランクをもう一度よく勉強してみなければと思わず考えてしまった名演であった。

何度か指揮者を呼び出すアプローズ(拍手)が長く続き、感情は最高潮に達したが、そこで思ったことは、観客の期待に満たされた会場の雰囲気もあり、オーケストラの演奏意欲もあり、しかしそれにも増してこの演奏を引き出した指揮者の力が大きいのではないかということだ。
欧米の様々なオーケストラでタクトを振り、たくさんのオーケストラの指揮者を歴任してきた、小泉和裕というマエストロをもっと知りたいと思った。

深く心を動かされ、もっと自分自身の音楽をつきつめなければと強く思わされた、2022年早春のシンフォニー体験であった。

文:上枝直樹


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早稲田大学第一文学部在学中より、中川賢二氏にジャズ理論・作編曲を師事。放送用、商業用BGM作品を展開する他、ハーモニカ奏者としてNHKドラマ『新花へんろ』のサウンドトラックにも参加。また、大谷政司氏に声楽を師事。複数の在京合唱団で指揮、指導、編曲を行うなど幅広い音楽活動を展開。過去に作曲したBGM作品はYouTubeでも公開されている。 NPO法人「音楽で日本の笑顔を」にて、音楽を通じた地域コミュニティ作りを醸成する指導員として従事している。

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