動乱の時代のロシア、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』〜あらすじや曲を紹介〜
ムソルグスキーのオペラ
『ボリス・ゴドゥノフ』
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』は、ロシアに在位した実在のツァーリ(皇帝)「ボリス・ゴドゥノフ」(1551頃-1605年、在位1598~1605年)の盛衰を描いた、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキー(1839-1881)唯一のオペラです。国内外の作曲家に影響を及ぼし、特にフランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862-1918)が熱心に研究したことは有名です。
権力を巡る裏切り、為政者の傲慢と葛藤、民衆の力強さと無知を露わにし、ここまでリアルに人間の姿を描いたオペラは『ボリス・ゴドゥノフ』をおいて他にありません。ムソルグスキーがオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』で描いたリアリズムは、不穏な世界に生きる私たちにも、時代を超えてメッセージを投げかけます。
ロシアオペラの金字塔、『ボリス・ゴドゥノフ』のあらすじや見どころを知って、オペラを楽しみましょう!
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』とは?
「ボリス・ゴドゥノフ肖像」出典:Wikimedia Commons
名門貴族の出自を持たずツァーリの座に就いた、ボリス・ゴドゥノフというロシア実在の人物の出来事を元にしています。ボリスが即位した1598年から1613年ロマノフ朝創設までの時代を、ロシアでは「動乱の時代」と呼んでいます。(歴史についての詳細は4ページ 『ボリス・ゴドゥノフ』と歴史 を参照)
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』は、「ツァーリの座を狙ったボリス・ゴドゥノフが、ツァーリの血筋であるドミトリー皇子殺害の黒幕である」という前提で始まります。
ボリス・ゴドゥノフ|Борис Годунов
『ボリース・ゴドゥノフ』
『ボリス・ゴドゥノーフ』
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』
先読みあらすじ
「ボリスを演じるフョードル・シャリアピン」アレクサンドル・ゴロヴィン画、1912年
出典:Wikimedia Commons
16世紀末のロシア。
世継ぎのないままツァーリ(皇帝)が病死。民衆は警吏に脅され、摂政のボリス・ゴドゥノフが新ツァーリに就くよう嘆願させられます。ボリスは拒否しますが、最終的に受け入れ新ツァーリとなります。
修道僧ピーメンは、ドミトリー皇子の死の黒幕がボリス・ゴドゥノフであることを告発した年代記を書きながら、若い僧グリゴリーに対し、殺害されたドミトリー皇子について語ります。皇子は生きていればグリゴリーと同じ歳でした。
ボリスは困難な政治や家族の不幸は自分のせいだと悩み、シュイスキー公爵はボリスにドミトリー皇子のことを思い出させ、惑わします。
ポーランド貴族の娘マリーナは、「偽ドミトリー」と結婚してロシア皇后になることをたくらんでいます。グリゴリーは修道院を脱走し、ドミトリー皇子を自称して偽ドミトリーとなっていたのでした。イエズス会士ランゴーニは、ロシアにカトリックを導入するためにマリーナを利用します。
モスクワの広場では、飢えた民衆がパンを求めてボリスに群がります。聖愚者は、ボリスがドミトリー皇子殺害の黒幕であると告発します。
クレムリンでは緊急貴族会議を開き、偽ドミトリー軍への対応を議論。ボリスはドミトリー皇子の幻影を見て錯乱状態になっています。修道僧ピーメンがドミトリー皇子の墓の奇跡を語ると、ボリスは苦しみだし、息子フョードルを後継者に指名し息絶えます。
偽ドミトリーの軍勢が、蜂起した民衆とともにモスクワに進軍。一人残された聖愚者は、ロシアの闇の未来を予言します。
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の版
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』には様々な版があり、ムソルグスキー自身が手がけたものだけで3種類(1869年、1872年、1874年)あります。というのも、このオペラを1869年に完成した翌年、王立劇場管理局に上演許可を申請したが却下されてしまいました。当時のオペラのスタイルからかけ離れすぎていたためです。ムソルグスキーは上演のため改訂を加えましたが、最終場面の群衆の暴動などを追加し、元の版とは大きく異なるものになりました。
このほか主要なもので4種類あり、さらに近年はこれらの折衷という形で上演することが多いようです。どの版で上演するかによって、登場人物もストーリーも異なります。
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の登場人物
ツァーリ (皇帝)
[フョードル2世]
ボリスの息子
[クセニヤ・ゴドゥノヴァ]
ボリスの娘
[ヴァシリー・シュイスキー, ヴァシリー4世]
ボリスの首席顧問
貴族会議書記官
修道僧
[グレゴリー・オトレピエフ]
偽ドミトリー
[マリーナ・ムニーシェク]
ポーランド貴族の娘
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