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レビュー:ゲネプロ見学レポート 東京二期会『カルメン』2025年2月18日(火)東京文化会館

ビゼーのメモリアルイヤーに新制作ワールドプレミエ
輝きを放った沖澤のどか、読売日本交響楽団の演奏

ジョルジュ・ビゼーが没後150年を迎えるメモリアルイヤーに、気鋭のイリーナ・ブルックを演出・衣裳に迎え『カルメン』が新制作された。彼女は今回が日本でのオペラ初演出ということもあり、前評判も高く注目が集まっていた。

2月20日、23日出演のキャストでゲネプロを鑑賞した。

時空をぼやかしたところに生きるカルメン

(C)Tokyo Nikikai Opera Foundation/Photo by Masahiko Terashi

『カルメン』は19世紀初めのスペインのセビリャが舞台であるが、今回の演出では場所も時代も曖昧でぼやかされている。カルメンはフラメンコダンサーのような赤いドレスは着ていないし、城宏憲演じるホセはじめ兵士も制服を着ていない。兵士たちは、特に後半は山奥の坑夫のように見えてしまって残念だった。衣裳は非常に重要と改めて思った。

一方、エスカミーリョは「いい男」全開で、「闘牛士の歌」では華やかで自信に満ちていた。実際、エスカミーリョ役の今井俊輔は堂々としたうぬぼれ男っぷりを楽しんでいたように思う。カルメンはエスカミーリョを結局選ぶものの、いっときはホセに心奪われるのに、彼女を魅了させるほどの魅力がホセからは感じられず淡白だった。

とはいえ、観る者にそういうさまざまな思いを抱かせるような物語を歌のみで紡いでいく歌手たちはさすがで、カルメン役の加藤のぞみも芯の強さを感じさせる感情表現を披露した。ミカエラ役の宮地江奈はいかにも田舎娘といったいでたち(はっきりかわいそうなくらいダサい)をさせられていたが、懸命にホセを追いかけ、第3幕では圧倒的な清らかさの勝利で、場を支配したのだった。

見事なオーケストラの演奏

近未来のどこでもないところ、という設定だそうで、セビリャの異国情緒やジプシーといった要素を強調したくなかったのかもしれない。けれどもそもそも『カルメン』は「ファム・ファタール」の代表とされるカルメンを主人公とし、愛情、欲情、嫉妬などの強い感情が登場人物間で行き交い、闘牛とフラメンコの土地で激しい情念が渦巻くドロドロの物語が繰り広げられる作品だ。感情に突き動かされて行動してしまうホセの単純化できない心情の変化などがもっと迫ってきてほしかった。

台詞とレチタティーヴォがカットされているので、スピーディに物語は進んだ。もしも初めての『カルメン』鑑賞がこの舞台だったら少し難しいのではと感じられた。

演奏は非常に素晴らしく、強い印象を残した。

前奏曲が始まった途端、期待を抱かせる生き生きとした演奏で心を奪われた。演奏は全体像をがっちりと捉えており、エネルギッシュかつ包容力のある演奏で舞台を支えていた。キャッチーな旋律も悪目立ちすることなく、物語の進行に溶け込んで自然に耳に入ってきた。この豊かなオーケストラサウンドがあるからこそ、舞台上でのドラマがリアルなものとして観る者の心を動かしていた。



指揮 沖澤のどか
演出・衣装 イリーナ・ブルック(Irina Brook)

カルメン(Ms) 加藤のぞみ
ドン・ホセ(T) 城宏憲
エスカミーリョ(Br) 今井俊輔
ミカエラ(S) 宮地江奈
スニガ(B) ジョン・ハオ
モラレス(Br) 室岡大輝
ダンカイロ(Br) 北川辰彦
レメンダード(T) 高田正人
フラスキータ(S) 三井清夏
メルセデス(Ms) 杉山由紀

合唱指揮 河原哲也
合唱 二期会合唱団
児童合唱 NHK東京児童合唱団
管弦楽 読売日本交響楽団

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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