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レビュー:開館70周年記念 音楽堂室内オペラ・プロジェクト第7弾 モンテヴェルディ 歌劇『オルフェオ』2025年2月23日(日)神奈川県立音楽堂

心血注いで作り上げた一期一会の稀有な舞台

写真:ヒダキトモコ

バロック・オペラの演奏でグルーヴ感!

神奈川県立音楽堂で上演されるバロック・オペラは後々まで語り継がれる名演が多い。今回も大いに期待して鑑賞したが、予想をはるかに超える素晴らしい内容だった。

バロック・オペラの演奏といえば、時折、物語が急展開するところでは激しさが強調されるところもあるが、概ね典雅なイメージがある。今回、最初からものすごい気迫が溢れ出て圧倒された。それはテンポの変化が著しいとかデュナーミクが派手、ということではなく、意思のあるグルーヴ感があったのだ。決して押し付けがましいわけでもない。本当に400年前の曲か? と面食らうくらいのグルーヴ。これが物語を先へ先へと進める推進力にもなり、気持ちが昂るワクワク感にもなり、心地よくムジカに誘われるままに舞台に没頭してしまった。

達者な歌手たち

写真:ヒダキトモコ

オルフェオとエウリディーチェの晴れの日、結婚式ではラブラブ全開で幸せいっぱいな二人なのだが、あっという間にエウリディーチェは死んでしまう。このエウリディーチェの死をオルフェオに告げるエウリディーチェの友人メッサジェーラ役で登場した彌勒忠史がド迫力、かつ存在感がものすごくて、舞台は一気にエウリディーチェの死の悲しみに包まれる。

休憩をはさみ、冥界へ行くことにしたオルフェオを導くスペランツァ役の中嶋俊晴も印象深かった。また終盤、オルフェオの父であるアポロ役の酒井雄一も威厳がありアポロらしかった。

そして後半特に独壇場であったオルフェオ役のバリトン、坂下忠弘が素晴らしかった。彼は素朴でさっぱりとしており、オペラ歌手にありがちな独特なキラキラしたオーラがない。けれども所作、頭や視線の向け方などがとても独特だった。幸せの絶頂からエウリディーチェを失う悲しみ、冥界に向かう不安、そして絶望、と一人で背負うさまざまな感情を、グイグイ前に出てくるのではないけれど惹きつけられるパフォーマンスで示し、説得力があった。

今回、多くのカウンターテナーが登場し、彼らがいると人間(オルフェオは人間と神のハーフだけれど)が地上と冥界を行き来するのはそれほど特別なことではないのかも、と思ってしまうくらい、普段感じられない独特の雰囲気を彼らは醸し出していた。その中でも中嶋俊晴は傑出しており、落ち着いていて深みのある、そして温かみもある声の持ち主、とてもユニークな存在で聴き入ってしまった。

全員が奏でることで生まれる魔法

写真:ヒダキトモコ

このように歌手一人ひとりが魅力的で聴かせるのであるが、アントネッロが奏で全員が合唱で歌う時間、何度かあったのだけれど、その時間が最も美しく調和しており、その一体感、天上の音楽のような美しさに圧倒された。それは時間をかけ大切に、丁寧に作り上げた音世界であることが実感できとても感動的だった。

神奈川県立音楽堂という素晴らしい劇場で鳴り響いたからなのかもしれないが、魔法にかかったような素晴らしい時間で、また伝説が生まれてしまったと思ったのだった。

その場に集った観客も実感していたに違いなく、それは何度もカーテンコールが続き、スタンディングオベーションで出演者をたたえたことからもわかった。


 オルフェオ 坂下忠弘

エウリディーチェ 岡﨑陽香

ムジカ/プロゼルピナ 中山美紀

メッサジェーラ 彌勒忠史

スペランツァ/精霊 中嶋俊晴
プルトーネ 松井永太郎

ニンファ 今野沙知恵

牧人 中嶋克彦
牧人 新田壮人

牧人/精霊 田尻健

牧人 川野貴之

カロンテ/精霊 目黒知史

ニンファ 田崎美香

牧人/精霊 近野桂介

アポロ/精霊 酒井雄一

指揮 濱田芳通

管弦楽 アントネッロ

演出:中村敬一

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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