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ボーマルシェ『フィガロの結婚』:オペラ『フィガロの結婚』の原作紹介〜オペラの原作#08

戯曲『フィガロの結婚』のあらすじ

『フィガロの結婚』あらすじ
第一幕

物語はフィガロが部屋の寸法を測っているところから始まります。

「どうして寸法を?」シュザンヌに訊かれて、フィガロは「伯爵様からこの部屋をもらうことになったから、ベッドが入るかどうか測ってるんだ」と答えます。

二人の部屋ができると聞いて喜ぶかと思ったのですが、シュザンヌは「私は嫌だね」とつっけんどんな様子。

どうして嫌なんだ?と理由を訊ねると、シュザンヌは「伯爵がこの部屋を下さるのは私をものにしようとしているからだよ」と答えます。

聞くと、伯爵は結婚を機に自ら廃止した〝初夜権〟を復活させようと企んでおり、美しいシュザンヌを手にするには、伯爵の部屋からほど近いこの部屋を結婚間近の二人に与えるのが都合がいい、という思惑があるとのことでした。

自分の働きぶりを評価されての褒美だと思っていたフィガロは怒り、伯爵を懲らしめる計画を立て始めます。

一方、策略を巡らせていたのはフィガロだけではありませんでした。

かねてからフィガロと結婚したいと思っていた女中頭のマルスリイヌは、以前、フィガロの計略(※)によって自分の計画を台無しにされた医師のバルトロにこんな話を持ちかけます。

フィガロは私に借金がある。その借金を返さなければ私とフィガロは結婚することになっている。ここに契約書もある。

それを聞いたバルトロは、フィガロに復讐するためマルスリイヌに協力することを申し出ます。

※ バルトロは前作『セビリアの理髪師』で、現在の伯爵夫人ロジイナを妻にしようとしていたところ、フィガロの妨害にあって、アルマヴィヴァ伯爵に奪われてしまう。その功績で伯爵はフィガロを取り立てることになるのだが、バルトロはこの一件からフィガロを憎んでいる。

運悪く密談しているところにシュザンヌがやってきます。二人の女はすぐにフィガロを巡っての口論を始めます。お互いの弱点をつっつき合い、やがて口論は熱を帯びていき、バルトロが制することでなんとか場は収まりました。

シュザンヌが部屋に戻ると、小姓のシェリュバンが困った様子で彼女が戻ってくるのを待っていました。ファンシェットの部屋にいるところを伯爵に見つかってしまい、それに激怒した伯爵に暇を出された、と嘆きます。

シェリュバンは自分がわからなくなってしまうほど恋に取り憑かれており、ファンシェットにも、伯爵夫人にも、シュザンヌにも、マルスリイヌにも、女と見るや胸をときめかせる少年でした。

シェリュバンがシュザンヌに、恋の素晴らしさ、女性の魅力を一方的に語っていると、突然、部屋に伯爵が入ってきます。シェリュバンは「まずい」と怯えて、咄嗟に椅子の後ろに隠れます。

第1幕:椅子の背後に隠れるシェリュバン(ケルビーノ)
19世紀 ,作者不詳の水彩画
出展:Wikimedia Commons


伯爵がシュザンヌの部屋にやってきたのは彼女を口説くためでした。

伯爵は、褒美をあげるから日が暮れたら庭に来てくれとシュザンヌに伝えます。そんなとき、音楽教師のバジルが部屋に入ってきます。伯爵はこんなところを見られたら面目が立たないと、椅子の裏に身を隠します。椅子の裏にいたシェリュバンは、椅子の上に飛び出し、シュザンヌはローブをかけて小姓の姿を覆い隠します。

伯爵を探しに来たバジルですが、話のついでにシェリュバンの恋煩いは伯爵夫人にまで向けられているとこぼします。それを聞いた嫉妬深い伯爵は立ち上がり、「大至急、あの小姓に暇を出せ!」と叫びます。

「これはとんだお邪魔を」勘違いしたバジルはそう言います。
「昨日もあの小姓は女の部屋でこそこそしてたんだ」そう言って、伯爵が椅子にかけてあったローブを持ち上げると、丸まったシェリュバンが現れました。

二日連続で見つかってしまったシェリュバンは言い逃れが出来ません。伯爵は激怒して「見せしめのためにこいつを立たせておけ!」と怒鳴りつけます。

場が変わって、フィガロが民衆を引き連れて伯爵のもとにやってきます。
そこでフィガロは「忌わしき初夜権を廃止してくれてありがとうございます」と恭しく言い、民衆にも俺に続けとばかりに声をかけます。

妻や民衆がいる手前、伯爵は「当然のことをしたまでだ」と威厳をもって答えますが、内心ははらわたが煮えくり返っています。初夜権復活を宣言される前に結婚を認めさせたいフィガロは、民衆たちと共に「殿様万歳!」「殿様万歳!」と騒ぎ立てます。

「いっぱい食わされたか」
伯爵はこの流れに押され、シェリュバンの罰を赦し、軍隊に加わるように任命します。

『フィガロの結婚』あらすじ
第二幕

第二幕は伯爵夫人がシュザンヌに、「伯爵に手なずけられようとしているの?」と訊ねる場面から始まります。

それに対してシュザンヌは「売りもの扱いされてるだけですよ」と答えます。伯爵夫人は、夫の愛が冷めてしまったことを嘆き、どうやったら以前のように愛してくれるものかと途方に暮れています。
そこにフィガロがやってきて、伯爵夫人に策を授けます。

現状を整理すると、フィガロは何事もなくシュザンヌと結婚したい。伯爵は初夜権を復活させてシュザンヌをものにしたい。伯爵夫人は伯爵の愛を取り戻したい。こうなります。

伯爵はきっとこれからマルスリイヌのもくろみを援助するだろうし、そうなる前にこっちから罠にはめよう。
シュザンヌが庭で待ってますという嘘をでっちあげ、伯爵をおびき寄せ、そこには女装をしたシェリュバンが待っている。伯爵の逢引現場を押さえる、これがフィガロが考えた作戦でした。

初版2幕の挿絵 ,1785年
Claude-Nicolas Malapeau 画
出典:Wikimedia Commons


早速、シェリュバンを呼びつけて、伯爵夫人とシュザンヌの二人は小姓に女装を施します。すでに軍に入隊するため発っているはずのシェリュバンでしたが、フィガロに引き止められて留まっていました。

もし、誰かに見つかったとしても辞令がないから出発が遅れたと言えばいいだろう……。そう伯爵夫人は考えるのですが、すでに辞令は出されていました。でも、大急ぎで用意されたものだったので、辞令には印が押されていませんでした。

シェリュバンは腕を怪我しており、伯爵夫人のリボンを傷当てにしていました。それを見た夫人はシュザンヌに包帯を取りにいかせます。
「あなたのリボンならすぐに傷は治りますのに」シェリュバンは夫人にそう言います。
「あら、それにどんな効果があるの?」


二人が盛り上がっていると、そこに伯爵がやってきました。

「どうして鍵がかかっているんだ」扉の外で伯爵が怒鳴っています。夫人は「私は一人でございますわ」と言いますが、「では、誰と話していたんだ」と騒ぎます。

シェリュバンを化粧部屋に隠し、伯爵を迎え入れると「いつもは鍵をかけないじゃないか」と妻を非難します。言い訳をしていると、化粧部屋から物音が聞こえてきます。シェリュバンが椅子を倒した音でした。

「誰かそこにいるんだな⁉」
「シュザンヌですわよ」
「シュザンヌは部屋に行ったと言ったじゃないか!そこから出てこい、シュザンヌ」
「シュザンヌは今着替えていて裸も同然ですから」
「じゃあ、返事だけでもしろ!」

絶体絶命の状況の中、シェリュバンは窓から飛び降ります。

痺れを切らした伯爵はとうとう扉を破壊するつもりでやっとこを持ってきました。夫人は観念して、中にいるのはシェリュバンであると打ち明けてしまいます。当然、伯爵は激怒し「あいつは手打ちだ!」と宣言します。

夫人は伯爵に鍵を渡し、扉を開けます。すると、そこから現れたのはシュザンヌでした。彼女は、いつのまにか寝台のある部屋から化粧部屋のほうへ移動していました。

逆上してばつの悪い伯爵は、しぶしぶ夫人に謝ります。女たちもこの件にケリがついてほっとするのですが、庭師のアントニオがやってきて、さっき空から畑に人が降ってきて、草花が駄目になってしまったという報告をします。

諍いの後に合流していたフィガロは機転を効かせて「飛び降りたのは俺だ」と言うのですが、アントニオは「お前が飛び降りたのならこの紙切れはお前に返さないとな」と言って、シェリュバンの辞令を取り出します。
伯爵はそれを見て、やはり化粧部屋にいたのはシェリュバンだった!と確信します。

ですが、フィガロは辞令に印がないことを伯爵に見せて「あいつは手続きに必要な印を俺に託したのです」と嘘をつきます。怪しいとは思うのですが、証拠がない以上、フィガロの言い分を飲むしかありません。

フィガロはにわかに活気づき、「それでは我々の結婚も……」と口にしたとき、マルスリイヌとバジルがやってきます。マルスリイヌは契約書を伯爵に見せ、味方を得たとばかりに伯爵は、裁判を開くことを宣言します。

場面は変わって、シュザンヌと伯爵夫人が密談をしています。

夫人は「逢引の作戦で庭で待っているのはシェリュバンではなく、私に変えてみてはどうだろうか?」と提案します。「誰にも内緒よ」という夫人に、シュザンヌは「では、フィガロだけには」と言いますが、夫人は「フィガロは自己流を出し過ぎるからダメ」と撥ねつけます。

二人の女が自分たちのもくろみに感心したところで、二幕の幕が閉じます。

『フィガロの結婚』あらすじ
第三幕


三幕ではフィガロとマルスリイヌの法廷のシーンが描かれます。

フィガロと結婚したいマルスリイヌと、それを後押しする伯爵、知略によって窮地を切り抜けたいフィガロの戦いが始まります。

訴訟が始まる前、シュザンヌは伯爵夫人が考えた作戦を決行するため、伯爵に逢引を承諾すると告げに行きます。これに伯爵は「なんて可愛い奴だ」と大喜び。仕込みは成功です。

急いで夫人に首尾を報告しようと駆けていたところ、シュザンヌはフィガロに出くわします。
「お前さんはせいぜい訴訟の方をうまくやるんだよ。もう勝ったも同然なんだから」
そう声をかけられてポカンとするフィガロ。近くには伯爵が立っていました。

「訴訟が勝ったようなものだとはどういうことだ?俺は騙されてるのか?」

そうこうするうちに裁判が始まりました。

裁判は、伯爵が仲間についているマルスリイヌが圧倒的に有利でした。証文に書いてある「しかのみならず」、「しからずんば」の語法の解釈を突っつき、少しだけ形勢はフィガロに傾くのですが、判決は「今日中に借金が支払われなければ、原告と被告は結婚するべし」と決定しました。

『フィガロの結婚』第3幕を描いた版画
出典:Wikimedia Commons


フィガロの敗北でした。ほっとするマルスリイヌと、バルトロ、伯爵に対して、フィガロは抵抗を見せます。「これでも俺は貴族だ。両親の承諾がなければ結婚はできない」それを聞いたバルトロは「捨て子のくせに何を言ってやがる」と馬鹿にします。

「この腕の痣がその証拠だ」
右腕にあるメスの痕を見せると、マルスリイヌが取り乱します。
「まあ!あの子だ!エンマニュエルだ!」

この傷跡によってフィガロはマルスリイヌとバルトロの息子だったということが判明します。ドン・ギュスマン・ブリドワゾン判事は「これでは当然、結婚はできんわい」と言って、裁判は終了となります。

そのとき、シュザンヌが伯爵夫人から預かった金を持ってやってきます。
「この金で、借金を払うから二人の結婚は止めてください」

目の前では、はなればなれになっていた息子との再会に感動しているマルスリイヌが、フィガロを抱きしめていました。それを見たシュザンヌは二人は結婚するものと勘違いし、激怒してその場を立ち去ろうとします。

フィガロはすぐにシュザンヌを引き止めますが、聞く耳を持ってくれません。
そこにマルスリイヌが「私はお母さんなんだよ!」と言ってシュザンヌを抱きしめます。ようやく状況を理解したシュザンヌはこの偶然を喜びます。

『フィガロの結婚』あらすじ
第四幕

フィガロとマルスリイヌの件が落着し、今度はシュザンヌと夫人が作戦のために動き始めます。
伯爵に渡す手紙に〝栗の木の下で待っています〟と書き、ピンで封留めをします。

場面が変わり、町の娘たちが夫人に花束を渡しにやってきます。その中には女装をしたシェリュバンが紛れ込んでいました。アントニオが女装しているシェリュバンを見つけ出し、それを見た伯爵は激怒します。
「お前はなぜ出発しなかったのだ?」

哀れ、罰を覚悟したシェリュバンの前にファンシェットがやってきて「いつも私にキスをするとき、キスをしてくれるなら何でもあげるとおっしゃるじゃないですか。それならシェリュバンを私にください!」と言い放ちます。
夫人の前で暴露された伯爵は動揺してしまいます。

『フィガロの結婚』第4幕を描いた版画
出典:Wikimedia Commons


やがて、フィガロの声掛けで結婚式が始まります。そのどさくさにシュザンヌは、例の手紙を伯爵に渡し、伯爵は嬉々として読み始めます。ピン付の手紙を読むのを見ていたフィガロは、あれはいったいなんだろう、と不思議に思います。

式が終わり上機嫌のフィガロが表をぶらついていると、ファンシェットと出くわしました。どうしたんだ、と訊ねると、ファンシェットはシュザンヌにピンを返しに行くところだ、と答えました。

「ピンだって?それは伯爵が持ってた手紙に付いてたピンだろう?」
驚くフィガロに、ファンシェットはきょとんとしながら「知っているのならなぜ訊くの?」と言います。

ファンシェットが言うには「これは栗の木の封印なのよ」ということでした。こりゃ、いったいどういうことだ……?フィガロが胸騒ぎを覚えたところで四幕は終了します。

『フィガロの結婚』あらすじ
第五幕

舞台は庭園内の栗の木立の下。左右には小屋があります。

シュザンヌの浮気を疑っているフィガロは、暗闇に身を潜めて逢引が行われるかどうか見届けようとしています。

シェリュバンがふらふらと歌いながら歩いてきて、シェザンヌの洋服を着て栗の木に向かう途中の伯爵夫人とかち合ってしまいます。シュザンヌのことが大好きなシェリュバンはすぐに変装している夫人にちょっかいを出し始めます。
そこに、伯爵がやってきて、またあの小僧か……!と怒り出します。

夫人は、シェリュバンに「私にかまわないで」と言うのですが、シェリュバンは「キスをしてくれないとどかない」と言って道をふさぎます。フィガロはその様子を見て「あの小僧!」と言って飛び出していきます。

シェリュバンが無理にキスをしようとした瞬間、フィガロよりも先に伯爵が飛び込んでいき、そのキスを受けてしまいます。伯爵はシェリュバンにキスをされたことで、怒りを爆発させて張り飛ばそうとします。ですが、その張り手は伯爵の近くまで駆けてきたフィガロが受けてしまいました。

逃げ出すシェリュバンに続いて、フィガロも頬を押さえながらよろよろと退場していきます。目の前にいる夫人をシュザンヌだと思い込んでいる伯爵は、気を取り直して口説き始めます。

夫人の手を取りながら「伯爵夫人の手と違ってキメが細かい手だ」と言い、指に触れては「夫人と違って綺麗だ」と言うなど、その言葉は夫人を傷つけていきます。

「このダイヤを贈るから儂を慕うしるしに身につけてくれ」
伯爵の贈り物を受け取った夫人を見ていたフィガロは(それがシュザンヌだと思っているので)、「なんて女だ!」と怒り狂います。

「そこにいるのはフィガロか!」伯爵はフィガロを見つけて逃げ出します。夫人は小屋の中に入っていきます。そこに夫人の恰好をしたシュザンヌがやってきます。

「夫人!聞いてください!伯爵が今どこにいるかご存じですか?シュザンヌがどこにいるかご存じですか?」
「静かにおしよ!」

その声を聞いてシュザンヌだとわかったフィガロは、騙された腹いせに、目の前にいるシュザンヌが夫人だと信じてるふりをして、口説き始めます。それに激怒したシュザンヌはフィガロを思いっきりビンタします。

「この浮気者!」

逢引していたのがシュザンヌじゃないとわかったフィガロにはその罵りも、殴打も嬉しいものでした。フィガロは、「お前だって気づいてた」ということをシュザンヌに伝え、二人はすぐに仲直りします。そして、すぐに伯爵を懲らしめる計画を立て始めます。

伯爵ははぐれたシュザンヌを探していました。
「もしかしてここにいるのかもしれん」
小屋を覗くと、そこには夫人の恰好をしたシュザンヌとフィガロが重なり合っていました。

初版第5幕の挿絵 ,1785年
Claude-Nicolas Malapeau 画
出典:Wikimedia Commons

「妻がフィガロと浮気を!?悪党め!誰かおらぬか!誰か!」
伯爵は騒ぎ立て、登場人物の全員が集まってきます。
「さあ、これで言い逃れはできないぞ。皆、どう思う、このけしからん女の制裁は!」
夫人の恰好をしたシュザンヌが跪きます。

「ならん、ならん!」

フィガロが跪きます。

「ならん、ならん!」

マルスリイヌが跪きます。

「ならん、ならん!」

ブリドワゾン以外の全員が跪きます。

「たとえ、百人跪こうとも、ならん!」

そこに伯爵夫人が現れます。その姿を見て全てを察した伯爵は、「ならん」と言うことはできず、「すべてを赦す……」と力なく答えました。

「フィガロ わたしゃ貧乏でした。誰からも軽蔑されました。少しばかりの知恵才覚をふるいましたが他人の憎しみを増すばかりでした。ところが、可愛い女房とお金がたんまり……」

ボオマルシェエ『フィガロの結婚』辰野隆 訳


ヴォオドヴィルが奏でられるというト書きが記されて幕となります。


参考文献

ボオマルシェエ『フィガロの結婚』辰野隆 訳 1952年,岩波文庫


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1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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