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ボーマルシェ『フィガロの結婚』:オペラ『フィガロの結婚』の原作紹介〜オペラの原作#08

ボーマルシェについて

ボーマルシェ像

ボーマルシェこと、ピエール・カロンは1732年にフランス、パリのサン・ドゥニ街で時計商を営む家に生まれました。

彼は家業を継ぎ、時計職人として腕を磨くことになります。
苦心の結果、指輪に嵌め込むことができる小さな時計を考案し、ポンパドール夫人やルイ15世の姫君に献上して、王家の信頼を得ました。

音楽の才能もあったボーマルシェは王宮の音楽教師の職に就いたことをきっかけに、破竹の勢いで出世していきます。
貴族に取り入り、遺産を手に入れ、地位を金で買い、貴族らしい名前に変え、ボーマルシェの名声は年々大きくなりました。

外交官のような役目を果たしながら執筆にも手を染め、『セビリアの理髪師』が大成功を収めます。
すぐに続編が求められ、誕生したのが『フィガロの結婚』でした。

『球戯場の誓い』
ジャック=ルイ・ダヴィッド 画 ,1790年
出典:Wikimedia Commons


平民のフィガロが不実の伯爵をやっつけるというストーリーには、アンシャンレジーム(※)への挑戦というべきメッセージが込められており、これに激怒した国王は上演を禁止しました。

ですが、過熱していく続編を求める声を止めることができなくなり、ついに『フィガロの結婚』が上演されます。
痛快な貴族批判が描かれた『フィガロの結婚』は前作以上の喝采をもって民衆に受け入れられました。
時はちょうどフランス革命前夜、民衆の熱がピークに達しようとしていた時代でした。

※フランス語で「旧体制」の意味。フランス革命後の新しい体制に対し、革命前のフランスの征爾・社会制度のこと。

戯曲『罪ある母』初版 ,1793年
出典:Wikimedia Commons


その後、戯曲としてはフィガロ三部作の三作目『罪ある母』を発表。これが劇作家ボーマルシェとしては最後の作品となります。

革命後は作家としては沈黙しますが、様々な事業に乗り出しては失敗、成功を繰り返し、勝者の喝采も敗者の辛酸も味わいます。

1799年5月18日にパリで亡くなりました。享年67歳。その顔は安らかであったと伝えられています。

革命の時代を活動家として生きた彼は、作品の中で躍動するフィガロのように、類まれな知略と、大きな野心と、反骨心で動乱期のフランスを駆け巡りました。

ボーマルシェは〝作家〟とカテゴライズするにはあまりにも型破りな才能をもった〝革命児〟でした。

『フィガロの結婚』上演までの道
──モーツァルトとダ・ポンテ

モーツァルトとダ・ポンテ
出典:Wikimedia Commons


モーツァルトは、貴族批判が込められているいわくつきの作品『フィガロの結婚』をどうしてもオペラ化したいと思っていました。保守的な土地柄のウィーンでは当然上演されるはずもありません。

そこで立ち上がったのが台本作家のロレンツォ・ダ・ポンテです。ダ・ポンテは、皇帝ヨーゼフ2世に直談判にいきます。

皇帝は「すでに上演禁止にしておる」と言うのですが、ダ・ポンテは、「これは喜劇ではなく、素晴らしい音楽ドラマなのです。原作の〝ふさわしくない〟部分は全て削除しましたから大丈夫です」と説得し、それならば、ということになり上演が認められました。

『フィガロの結婚』は、稀代の天才モーツァルトと、破天荒なボーマルシェ、そしてこのダ・ポンテという傑物たちが奇跡的に邂逅を果たさなければ、日の目を浴びることはなかったかもしれません。

関連作品

映画『アマデウス』ミロス・フォアマン


映画『アマデウス』は、ピーター・シェーファーの同名戯曲を映画化した作品で、『フィガロの結婚』誕生シーンが描かれています。

モーツァルトの才能を苦々しく思っている宮廷作曲家サリエリが何度も妨害工作をしかけるのですが、モーツァルトはその天衣無縫ぶりを発揮して、王室という枠を超えて自らが信じる音楽を表現し続けていきます。

禁止されている『フィガロの結婚』の作曲に着手していることを皇帝に告げ口されて、「なぜ、すでに禁止されているものを書くのだ?」と咎められたモーツァルトは「これは喜劇ではなく愛を謳った作品なのだ」と熱っぽく語り、無事、上演の日を迎えます。
この結果に告げ口をしたサリエリは悔しがります。けれど、モーツァルトが書いた曲の出来には文句のつけようがなく、音楽家としてのサリエリの心は素直に称賛を送っていました。

こちらはフィクションなので、史実とは異なりますが、モーツァルトの劇的な人生を、素晴らしい音楽とともに描かれた傑作となっています。

アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞の計8部門を受賞。モーツァルト役のトム・ハルスはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、サリエリ役のF・マーリー・エイブラハムはアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

『セビリアの理髪師』ボーマルシェ

 


『セビリアの理髪師』は『フィガロの結婚』の前作であり、ボーマルシェの出世作となっています。

フィガロはこのとき、理髪師であり、何でも屋でした。

『セビリアの理髪師』でフィガロは若き伯爵を助け、現伯爵夫人のロジイナと結びつける役回りで、このときの功績によって、フィガロは伯爵の家来となりました。

イタリアの天才作曲家ロッシーニが書いた傑作オペラとしても有名ですね。



1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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