ロマンチックバレエの名作『ジゼル』のストーリーや見どころ、演出による違いを解説
4. バレエ『ジゼル』の振付師・演出家ごとの違い
1841年の初演以来、バレエ『ジゼル』はさまざまな振付家・演出家が改訂を重ねてきました。
中でもマリウス・プティパによる改訂版が生まれたことで、今日まで『ジゼル』を受け継ぐことができたと言われています。
『ジゼル』の代表的な演出や、異彩を放つ演出「マッツ・エック版」や「アクラム・カーン版」などについて見ていきましょう。
4.1【初演】ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー版
バレエ『ジゼル』の初演は1841年のフランス。
のちに名ダンサーとして知られるカルロッタ・グリジとマリウス・プティパの実兄リュシュアン・プティパによって踊られました。
左|ジゼルを踊るグリジを描いたリトグラフ(1841)
右|リュシアン・プティパ(1845) 出典:Wikimedia Commons
1841年の初演の時点で、アドルフ・アダン作曲の音楽に加えて、ヨハン・ブルグミュラー作曲の音楽も使われています。(詳しくは後述)
1850年にグリジがフランスからサンクトペテルブルクへ移ると、1868年を最後に初演版の『ジゼル』の上演は途絶えてしまいました。
4.2 マリウス・プティパ版
フランスでの上演が途絶えた『ジゼル』をロシアで復活させたのがマリウス・プティパです。
1884年以降、数回にわたって改訂を重ね、マリウス・プティパ版を確立させました。
第1幕のジゼルのVa(英バリエーション、仏バリアシオン、ソロの踊りという意味)はプティパによって加えられたものです。
そのほか、第2幕のウィリたちの踊りのスタイルが統一され、コール・ド(群舞)が重層的に展開するものへと作り直されました。
4.3 マッツ・エック版
さまざまな演出の中でもひときわ異彩を放っているのが、スウェーデンの振付家マッツ・エックによる演出です。
エック版のジゼルは南の島を舞台にしています。時代設定は、初演の1982年における「現代」です。
ジゼルは情緒不安定で自由奔放な女性。喜怒哀楽を身体いっぱいに表現します。そして第1幕のラストでは、ジゼルは命を落とすのではなく、精神を病んでしまいます。
精神を病んだジゼルが連れてこられたのは精神病院。看護師長がミルタ、患者たちがウィリです。
古典作品としての『ジゼル』とは全く違う演出となっています。
4.4 ピーター・ライト版
英国の振付家サー・ピーター・ライトによるピーター・ライト版は、英国ロイヤルバレエ団がレパートリーにするなど、世界各国で上演されている人気の演出です。
日本では、スターダンサーズ・バレエ団がレパートリーの1つとしています。
ピーター・ライト版では、ジゼルはアルブレヒトの剣を使って自死すると解釈されています。キリスト教で禁止されている自死を犯したため、ジゼルの墓は森の外れにあるという解釈なのです。
そのほかにも、ジゼルの母が「結婚前に死んだ娘はウィリになってしまう」と説教するマイムが長めに取られるなど、細部にこだわりが詰め込まれた演出となっています。
4.5 アクラム・カーン版
イングリッシュ・ナショナル・バレエのレパートリーである「アクラム・カーン版」も、時代を近現代に設定し、斬新な解釈をしています。
アクラム・カーン版のテーマは、格差社会や移民問題。ジゼルは移民労働者、アルブレヒトは工場の支配者などの裕福な階層という設定です。
アルブレヒトの子を妊娠したジゼルは殺されてしまい…冥界で再び会って踊られるジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドゥでは、古典の「ジゼル」が体重を感じさせないのに対し、カーン版のジゼルは生を失った「重み」が強調されているのが特徴的です。
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