ヴェルディ渾身の人間ドラマ、オペラ『リゴレット』~あらすじや曲を紹介~

3.オペラ『リゴレット』のあらすじ〜人間の欲望〜

オペラ『リゴレット』に一貫するテーマは「呪い」です。マントヴァ公爵に娘を凌辱されたモンテローネ伯爵の呪いが、ラストの悲劇に連なるという因果応報の筋書きとなっています。しかし「呪い」は表向きのテーマであり、オペラ『リゴレット』の真のテーマは、人間のあらゆる「欲望」であるとも考えられます。

領主のマントヴァ公爵は、歓楽を極めるのに略奪も辞さぬ好色家。公爵に仕える廷臣たちはいつも、悪舌なリゴレットへの仕返しをたくらんでいます。主人公のリゴレットは最底辺に生きる道化師で、公爵の権力を笠に着て他人を笑いものし、人々からは蔑まれています。現代の私たちから見ると最悪な人間関係の職場ですね。

このオペラ唯一の善良な存在は、リゴレットの娘ジルダです。しかし彼女も、教会で見かけた青年(マントヴァ公爵)への愛を諦められなかったがために、最後は身を滅ぼしてしまいます。

権力欲、所有欲、歓楽欲、愛情欲、承認欲、優越欲。オペラ『リゴレット』は、人間の持つあらゆる欲望を描き出しています。

あらすじを知って実際の劇を鑑賞してみましょう。

リゴレット あらすじ
✳︎ 第1幕 ✳︎

マントヴァ、ドゥカーレ宮殿の新婚の間)

【マントヴァ公爵の宮殿、壮麗な大広間】

16世紀の北イタリア、マントヴァ。
領主のマントヴァ公爵は、歓楽に明け暮れる放蕩者。この日も宮殿の大広間で豪華な夜会を開き、美女を物色しています(アリア「あれか、これか」)。公爵はチェプラーノ伯爵夫人を口説き始めました。公爵に仕える道化師のリゴレットは、女遊びを手助けするためチェプラーノ伯爵を引きとめます。公爵の虎の威を借り居丈高に振る舞うリゴレットは、廷臣たちから嫌われていました。

そこに、モンテローネ伯爵が激怒して登場。マントヴァ公爵に娘を凌辱されたと激しくなじります。捕縛されたモンテローネ伯爵は公爵を呪い、嘲笑うリゴレットにも呪いの言葉を吐きました。リゴレットはその呪いに、言いようのない恐れと不安を抱きます。

1851年初演時の第1幕第2場の舞台デザイン

【夜の街路、袋小路の一角】

リゴレットはモンテローネ伯爵の呪いを思い出しながら、一人夜の町を歩いていました。殺し屋スパラフチーレが現れ、「御用の際は何なりと」と言って去って行きます。リゴレットは「あいつは剣で、自分は舌で人を殺す」と歌います(「我らは同類」)。

ある一軒家にたどり着くと、美しい娘が走り出てきました。愛してやまない亡き妻の忘れ形見、一人娘のジルダです。リゴレットは娘と居るときだけは心が安らぎ、優しい父に戻ることができるのでした。そして、ジルダが傷つくことを恐れるあまり、この一軒家に乳母のジョヴァンナとともに隠れ住まわせていました。リゴレットは自分の名前も、道化の職業も、娘には一切話していません。教会のお祈り以外は外に出ないように言いつけ、ジルダの安全を十分に確認して去っていくのでした。

リゴレットが去ると、ジルダはジョヴァンナに、教会で若く美しい男性(マントヴァ公爵)に会ったことを話しました。すると、マントヴァ公爵がジルダの前に現われます。ジルダを見初めた公爵はジョヴァンナに金を渡し、家の中庭に潜んでいたのでした。公爵はジルダに愛を語り、グァルティエル・マルデという貧乏学生だと偽ります。 物音がし、公爵はジョヴァンナに導かれて家の外へ出ていきました。ジルダは公爵を愛おしそうに見送り、アリア「慕わしい人の名は」を歌います。

嫌な予感がしたリゴレットがジルダの住む家に引き返してくると、廷臣たちに出くわしました。彼らは、リゴレットの愛人と勘違いしたジルダをさらいにきたのでした。廷臣たちは、チェプラーノ夫人をさらいに来たと嘘をつき、リゴレットに目隠しをして梯子を押さえさせます。その隙にジルダをさらい、公爵邸に逃げ去りました。リゴレットはもぬけの殻の家中にジルダのハンカチを見つけ愕然とします。

リゴレット あらすじ
✳︎ 第2幕 ✳︎

Mantova-Scultura a Rigoletto

マントヴァ、リゴレットの館にあるリゴレット像
Massimo Telò, CC BY-SA 3.0
出典:Wikimedia Commons

【マントヴァ公爵の宮殿の応接間】

マントヴァ公爵はジルダがさらわれた知らせを聞き、その身を案じます(アリア「ほほに涙が」)。そこに廷臣たちが入ってきて、リゴレットの愛人をさらい寝室に待たせていると報告。それがジルダであることを悟った公爵は喜び、浮き浮きと寝室に入ります。

入れ替わりにリゴレットが登場。何食わぬ顔を取り繕いながら娘の所在を探り、公爵の寝室にジルダがいることを確信します。「金で何でも手に入ると思っているお前たち、しかしわしの娘は金では買えぬ!」と激しい怒りを爆発させ、娘を返すように訴えます(アリア「悪魔め、鬼め」)。

そこにジルダが走り出てきて、涙ながらにマントヴァ公爵との一部始終を父に告白。リゴレットは、愛する娘を傷つけられ、公爵への復讐を誓います。

リゴレット あらすじ
✳︎ 第3幕 ✳︎

パリ・オペラ座上演時の第3幕の舞台デザイン

【夜のミンチョ川岸、二階建ての居酒屋】

士官の身なりをしたマントヴァ公爵。殺し屋のスパラフチーレに、酒と女を所望しています(アリア「女心の歌」)。スパラフチーレの妹マッダレーナを口説く公爵、色目を遣うマッダレーナ、公爵の本性を知って悲しむジルダ、娘のため復讐を誓うリゴレットの4重唱が繰り広げられます(「美しい愛らしい娘よ」)。

公爵への気持ちを捨てきれずにいたジルダは、リゴレットに促され、男装して一人ヴェローナへ向かいます。残ったリゴレットは居酒屋の裏手に回り、スパラフチーレに手付金を渡して公爵の殺害を依頼。遺体を引き渡すように念押ししました。

スパラフチーレはさっそく、酔いつぶれて寝ているマントヴァ公爵を殺しに取り掛かります。しかし、公爵に魅せられたマッダレーナが公爵の命乞いをし、依頼主のリゴレットを殺してしまおうと兄を説得します。妹の懇願に折れたスパラフチーレは、他に客が来たら身代わりに殺すことに決めました。嵐の中を引き返し、兄妹のやり取りを聞いていたジルダ。公爵のために命を捧げる決心をし、居酒屋の戸を叩きます。恐ろしい雷鳴。

嵐が静まり、現われたリゴレット。スパラフチーレに残りの金を渡し、遺体袋を受け取りました。スパラフチーレが去った後、胸を躍らせながら遺体袋を開けようとすると、舞台裏からマントヴァ公爵の歌声が。ではこの遺体は一体・・・。

震える手で開くと、中から現れたのは息も絶え絶えのジルダでした。自分と公爵を許すよう願い、天国の母の元で父のために祈り続けると言い残して息絶えます。リゴレットは、モンテローネ伯爵の呪いを思い出すのでした。

画像|出典:Wikimedia Commons

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神保 智 じんぼ ちえ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース声楽科在学中。子どものころから合唱団で歌っていた歌好き。現在は音楽大学で大好きなオペラやドイツリートを勉強中。

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