動乱の時代のロシア、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』〜あらすじや曲を紹介〜
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の見どころ
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』は、ロシア語の発音やイントネーションを音楽に取り入れ、民謡やロシア正教音楽などロシア独特の旋律を多用しています。男声(特に低音のバス)の割合が非常に大きく、華麗なイタリアオペラなどとは異なり、重厚で迫力のあるオペラとなっています。
ムソルグスキーが音楽で表現する深い心理描写も見どころです!
ボリス・ゴドゥノフ 時計の場
『うーん、苦しい!息をつかせてくれ』
Сцена с курантами
ボリショイ劇場1978年
ミハイル・ハイキン指揮、ボリショイ劇場管弦楽団
エフゲニー・ネステレンコ(ボリス・ゴドゥノフ)
1時間26分20秒あたりから
第2幕最終、苦悩と不安の極限を歌うボリスの独唱で、このオペラ最大の見せ場です。
弦楽器のリズムとヴァイオリンの12連符によって、大時計が動き出す音を表現してます。この不気味な時計の音は、精神のバランスが崩壊していくボリスの心理状態をも表します。
そして、オーケストラが8時の鐘を打つと子どもの幻影が現れます。参考動画では、窓のカーテンが揺れることで子どもの幻影を表す、という演出をしています。
ボリス・ゴドゥノフ 死のモノローグ
『さらば、わが子よ、わしはもう死ぬ』
Прощай, мой сын, умираю
フョードル・シャリアピン
第4幕、ボリスが息子フョードルを呼び寄せて歌う、辞世のモノローグです。
死を前にして歌う音楽は安らかで、罪が清められていくかのよう。途中、鐘の音が鳴り響き、命の終わりが告げられます。
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』では、この場面のように、歴史の転換点になる事柄が発生する時点で鐘の音が鳴ります。ボリスの戴冠式(プロローグ)、チュードフ修道院で夜が明ける場面(第1幕、グリゴリーが偽ドミトリーになろうと決意)、偽ドミトリー軍の侵攻(第4幕、オペラ最終部)です。
ヴァルラーム
『その昔、カザンであったこと』
Как во городе было во Казани
フョードル・シャリアピン
第1幕、リトアニア国境近くの旅籠屋で、逃亡僧のヴァルラームが歌う歌です。カザンはロシア連邦内の都市です。 イヴァン雷帝がタタール人を撃退した時の戦いの様子を、実在のロシア民謡をもじって景気よく歌いあげます。コサックダンスのような勇壮さと威勢を備えたこの曲は、単独で演奏されることも多いバス歌手の人気曲です。
ちなみにこのSpotify音源の歌唱は「歌う俳優」と言われた20世紀初頭の名バス歌手、フョードル・シャリアピン(1873-1938)のもの。ボリス・ゴドゥノフを得意役としていました。1936年(昭和11年)来日の際、帝国ホテルの料理長は、歯が悪くて悩んでいたシャリアピンのために柔らかいステーキを考案。帝国ホテルは彼の名をとって「シャリアピン・ステーキ」と名づけました。
「1936年の訪日時のフョードル・シャリアピン」
出典:Wikimedia Commons
民衆の大合唱
キーロフ劇場 1990年
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮
ロバート・ロイド(ボリス・ゴドゥノフ)
合唱場面:【プロローグ】5分5秒頃~【第4幕冒頭】2時間30分頃~【第4幕最終場面】3時間11分頃~
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』では、民衆の大合唱に大きな存在感があります。
他のオペラでよく見かけるような、ヒーロー・ヒロインを称えるための合唱ではなく、意思を持って積極的に行動します。特定の人物が前面に出てくることがありますが、すぐ合唱に溶け込み集団の中に戻っていく。個々に自由な意思を持つ民衆の姿を、合唱が担っているのです。ボリス・ゴドゥノフと対峙する、もう一方の主人公であるとも言えます。
冒頭でボリスにツァーリ就任を歎願する場面では、脅されてやっているいやいや感が露わです。第4幕冒頭では、パン求めて合唱しボリスをたじろがせます。最終場面の森のシーンは合唱の最高潮で、ロシア民謡を織り交ぜ暴徒となって歌い騒ぎます。
この森のシーンは、プーシキンの戯曲にはない、ムソルグスキー自身の考案によるものです。力強く生命力にあふれる一方、その場の感情に流されやすい民衆の姿を描いています。
オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』公演予定
新国立劇場で『ボリス・ゴドゥノフ』が公演されます!
期間は11月15日(火)〜26日(土)の5日間。
日本語字幕付きでじっくりオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』を鑑賞できます!
新国立劇場オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』
2022年11月15日(火)〜26日(土)
会場:新国立劇場 オペラパレス
開演:15日(火)14時
17日(水)19時
20日(日)14時
23日(水・祝)14時
26日(土)14時
★ チケット料金
5,500円〜27,500円
詳しくは:新国立劇場オペラ
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