森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ エリック・サティ<童話音楽の献立表>より』~小説を彩るクラシック#27
エリック・サティ
『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
絹子先生とサティのおじさんはケンカをするようになり、君絵は二人の危うい状態を察知して奈緒にこう言います。
あたしたちが大人になったらさ、好きなもんを好きなように好きなだけ作って、そんで毎日を木曜日みたいに、きらきらさせてやろうな。そんで、そんで……そんで絶対に、終わらせないんだ。
ついに、サティのおじさんはレッスンの時間になっても顏を出さないようになり、居間は、まるでペダルのないピアノのような味気ない空間となっていきました。
やがて、ピアノ教室で毎年クリスマス前に行われる発表会の日がやってきました。
奈緒はエリック・サティの<金の粉>を演奏曲に選び、君絵はピアノではなく歌を、奈緒の伴奏で<アーモンド入りチョコレートのワルツ>を歌うことに決めていました。
二人の歌と演奏で、現状を変えよう──きっと、以前のように楽しいワルツの時間がやってくるはずだ──と意気込んで発表会に臨みます。
きっと、サティのおじさんは観に来てくれるはずだ、そう信じて待っていると、サティのおじさんはサンタクロースの恰好をしてやってきます。
「メリークリスマス!」
いつも通り、茶目っ気たっぷりのおじさんです。
サティのおじさんは、奈緒の演奏で絹子先生とワルツを踊り、物語は大団円を迎えます。
エリック・サティは変人として、そして誰よりも自由な作曲家として生涯を全うしました。この『アーモンド入りチョコレートのワルツ』には、疎外感を感じている人への抱擁と、肯定が込められているように感じます。
大人になっても目一杯楽しんでいいんだ、人の目なんか気にしなくていいんだ、というようなメッセージを跳ねるようなワルツに託した『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
さあ、たまには責任という荷物をわきに置いて、幻滅するような現実から離れて、ワルツを踊るように、ふわふわと楽しんでいきましょう。
参考文献
森絵都(1996年)『アーモンド入りチョコレートのワルツ』角川文庫
小説を彩るクラシック
森 絵都『子供は眠る』
森 絵都『彼女のアリア』
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