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ジョージ・ガーシュイン|George Gershwin 1898-1937

代表作品

『スワニー』| Swanee

1919年作曲。
作詞はアーヴィング・シーザー(ミュージカルの作詞家、作曲家)。
初演はブロードウェイのキャピトル・シアター(現ガーシュイン・シアター)の[キャピトル・レヴュー]においてであったが、その後、歌手のアル・ジョルソンが自らのショーの中で歌ったことによって大ヒットとなり、ガーシュインの出世作であるとともに、歌手ジョルソンの代表曲にもなっている。
シンコペーションを多用したラグタイムスタイルのポップス歌曲である。短調と長調の変化をうまく使って、独特の美しいメロディを持つ。

『ラプソディ・イン・ブルー』| Rhapsody in Blue

1924年作曲。
ジャズ・オーケストラの指揮者であったポール・ホワイトマンの提案により、ニューヨークはミッドタウンのエオリアン・ホールにおいてガーシュインのピアノで初演。作曲の時間があまりなかったことと、自らのオーケストレーション技術の不足から、ガーシュインが2台のピアノ曲として作曲したものを、ホワイトマン・オーケストラのピアニスト兼アレンジ担当であったファーディ・グローフェがその時のオーケストラ編成(初演ジャズバンド編成版*1)に合わせてオーケストレーションを行った。

その後1926年にグローフェ自身が一般的なオーケストラ版(1926年版*2)として再アレンジ、さらにガーシュイン死後の1942年、ガーシュイン作品の出版を行っていたワールドミュージック社の編集者であるフランク・キャンベル=ワトソンが1926年版をさらに加筆修正した版(1942年版*3)が(本人の許可なしに編曲を加えてしまうその是非は別として)現在一般的に演奏されている。

ソロ部分から最初はクラリネット協奏曲のようでもあり、また全般的にピアノ協奏曲のようでもある。冒頭のクラリネット・ソロは最初17音の上昇形の音階で書かれていたものを、バンドのクラリネット奏者がグリッサンドで演奏したものが最終的に採用されたという経緯があり、動物の鳴き声のような効果を生むジャズの奏法が印象的に使われている。シンコペーションの多用、テンションコードの展開、ブルーススケールの使用など、さまざまなジャズの要素がちりばめられているが、何よりも楽譜に基づきながら、ピアノソロが自由な演奏に聞こえる音の作り(もちろんジャズパートがあってある程度の自由は許されているのだが)、それがエンターテインメントであり芸術になっているところに[シンフォニック・ジャズ]の一番手としての真骨頂がある。

*1 初演ジャズバンド編成版の構成は、<木管>サックス1、クラリネット1、オーボエ1、ファゴット1、<金管>ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、チューバ1、<打楽器>チェレスタ1、ピアノ1、ソロピアノ、<弦>ヴァイオリン8、バンジョー1

*2 1926年版の構成は、<木管>フルート2、オーボエ2、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、アルトサックス2、テナーサックス1、<金管>ホルン3、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1、<打楽器>ティンパニ、ベル、銅鑼、スネアドラム、シンバル、トライアングル、ソロピアノ、<弦>第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、バンジョー、ギター

*3 1942年版の構成は、1926年版のスネアドラムを小太鼓に変更、ギターを割愛。

『ピアノ協奏曲へ調』| Concerto in F

1925年作曲。
ニューヨーク・フィルの首席指揮者であるウォルター・ダムロッシュの委嘱により、カーネギーホールにおいてガーシュイン自身のピアノソロで初演。
3楽章からなり、ガーシュイン自身初めて音楽理論書を購入して勉強した上で、全て自分でオーケストレーションを行った、本格的なクラシックの傑作である。前作の『ラプソディ・イン・ブルー』から2年も経たないうちに独学でここまで作曲してしまうガーシュインは、やはり元々の作曲の力がずば抜けている。

<第1楽章(アレグロ)>
ヘ長調。テンションノート、シンコペーションをふんだんに使ったジャズテイストの音楽。ソナタ形式を取り入れていて、アーティキュレーションも効果的に使い、劇的に聴かせる。

<第2楽章(アダージョ~アンダンテ・コン・モート)>
変ニ長調。ブルーススケールを使い、メランコリックなゆったりしたテンポの中に変化もあり、ポップス、ジャズらしく聞こえる楽章である。

<第3楽章(アレグロ・アジタート)>
へ短調~ヘ長調。力強く始まり、ピアノもオーケストラも16分の連続で進み、今までの楽章の主題を繰り返し再現していく。変化がありながらも疾走感のある楽章で、最後も力強く終わる。

交響詩『パリのアメリカ人』| An American in Paris

1928年作曲。
ニューヨーク・フィルの委嘱により、ウォルター・ダムロッシュ指揮、カーネギーホールにおいて初演。
パリを訪れた際の感動を元にして書かれた標題音楽※5 である。この作品も例の編集者フランク・キャンベル=ワトソンが編曲を加えた改訂版があり、現在ではそちらが演奏されることが一般的である。

最初に華やかで賑やかなパリの街並みが描かれ、中間部ではテンポを落としてアメリカへの郷愁が描かれるが、ブルーススケールによるジャズの響きはやはりアメリカを思わせるのに最適であることがわかる。そして最初の主題に戻って再び賑やかなパリの街並みが描かれ、最後は中間部の主題を登場させパリのアメリカ人を描いて劇的に終わる。

エンターテインメントを感じさせるこの[シンフォニック・ジャズ]は、その後1951年、この曲を主題として全編ガーシュインの作品を使ったミュージカル映画『巴里のアメリカ人』の制作につながることとなる。

※5 情景や雰囲気などを音楽として描写し、そのイメージを聴き手に想起させる器楽曲

オペラ『ポーギーとベス』| Porgy and Bess

1934~1935年作曲。
オペラを作曲したいと思っていたガーシュインは、南部のチャールストン出身の白人作家エドワード・デュボース・ヘイワードの小説『ポーギー』のオペラ化に、兄アイラ、原作者ヘイワードとともに取り組むことになる。創作のためにジョージはチャールストンまで赴くが、そこで直接黒人音楽に触れたことで、その要素を取り込んだと言われており、ジョージ自身この作品を[アメリカン・フォーク・オペラ]と呼んだ。

1935年9月のボストン、コロニアル劇場での試演会での評価はあまり良くなかったようだが、翌10月のブロードウェイ、アルヴィン・シアターでの初演は評判も良く、ロングランとなる。ただし、その年のブロードウェイ・ミュージカルのヒット作といえるほどでもなく、クラシック評論家からは辛口の批評も少なからずあった。

そもそも、既にメトロポリタン・オペラ(MET)から新作オペラの話があったにもかかわらず、ブロードウェイで初演をしたのは、『ポーギーとベス』は全員黒人キャストでという構想を持っていたからで、当時METには人種分離法により黒人が出演した前例がなく、ブロードウェイでの上演の方が都合が良かったのである。また、クラシックの殿堂であるMETからすれば、ジャズなど舞台に上げられないということも大きかったようである。

余談になるが、この後ポップスとクラシックが融合する形で発展したアメリカ音楽が、正統派クラシックとしてのヨーロッパ音楽の流れと一線を画すのは、この辺りにひとつの大きな理由があるのではないかと思う。ちなみに、METに初めて黒人ソリストが登場したのは1955年である。そしてMETで初めて『ポーギーとベス』が上演されたのは、初演から半世紀を経た1985年であった。主要キャストは全て黒人による完全版だったという。そして2019年~2020年シーズンにMETで上演されたのがさらに30年ぶりだったというから、国民的オペラとは何だろうかと考えてしまう。

全3幕で3時間ほどの作品で、1920年代初頭の貧しい海辺の町で暮らすアフリカンアメリカンコミュニティーの生活を描いた、シリアスドラマである。劇中の代表曲には『サマータイム』、『アイ・ラヴ・ユー・ポーギー』などがあり、これらはクラシックやジャズ、ポップスといったあらゆる音楽シーンで頻繁に演奏される人気曲である。音楽的にはやはりジャズの要素が色濃く出ていて、そういう意味では、一般的なオペラとは異なるが、20世紀を代表するオペラとして評価されていることは間違いない。

初演の2年後、ジョージ・ガーシュインは38歳の短い生涯を閉じることになる。


参考文献

【書籍】
ポール・クレシュ(1989年)『アメリカン・ラプソディ ガーシュインの生涯』(鈴木晶訳)晶文社

【インターネット情報】
山田治生(2020年6月23日)「音楽ファンのためのミュージカル教室第9回 ガーシュインが黒人キャストで描いたオペラ《ポーギーとベス》」ONTOMO(参照日:2021年8月10日)
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(2021年5月16日)「ジョージ・ガーシュイン」(参照日:2021年8月10日)
直江慶子(2008年4月1日)「《ラプソディー・イン・ブルー》その解釈をめぐる一考察」PTNA(参照日:2021年8月10日)

【DVD】
Peter Adam(Directing & Writing)(1987): George Gershwin Remembered[DVD] , Program Development Company, Inc. and BBC-TV


執筆者

上枝直樹 うええだ なおき
早稲田大学第一文学部在学中より、中川賢二氏にジャズ理論・作編曲を師事。放送用、商業用BGM作品を展開する他、ハーモニカ奏者としてNHKドラマ『新花へんろ』のサウンドトラックにも参加。また、大谷政司氏に声楽を師事。複数の在京合唱団で指揮、指導、編曲を行うなど幅広い音楽活動を展開。過去に作曲したBGM作品はYouTubeでも公開されている。
NPO法人「音楽で日本の笑顔を」にて、音楽を通じた地域コミュニティ作りを醸成する指導員として従事している。


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