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モーツァルト「おれの尻をなめろ」とは!?〜歌おう、笑おう、モーツァルト!〜

モーツァルトイラスト

誰もが知っているクラシック作曲家、モーツァルト。700曲以上に及ぶ作品の中に「おれの尻をなめろ」という曲があるのをご存知でしょうか?今回はモーツァルトの、「お尻」にまつわる4つのカノンをご紹介します。

”神童・天才”と呼ばれた作曲家でありながら、上流階級に庇護されて生きる従来の音楽家の在り方を拒み、後期はフリーランスとして作曲を続けた、17世紀のヨーロッパにおいては異端の人物。現代の働き方の先駆けともいえる生き方と、その遊びごころに触れてみましょう!

「おれの尻をなめろ」K.231(382c)

俺の尻をなめろ 陽気にいこう
文句をいってもしかたがない
ブツブツ不平を言ってもしかたがない
本当に悩みの種だよ
だから陽気に楽しく行こう
俺の尻をなめろ

Wikipedia”俺の尻をなめろ”

映画「アマデウス」の衝撃的人物像と同じく、K.231の作品タイトル「おれの尻をなめろ」というパワーワードはテレビや本、youtube、ブログなど、様々な機会に紹介され、いつの頃からか、天才だけど変態というイメージは広く伝わっています。
このような、”クラシック音楽・天才”という固い印象を払拭してくれる曲がまだまだありますよ!

「プラーター公園に行こう、狩り場に行こう」K.558

プラーター公園に行こう、狩り場に
カスパールのとこへ
熊はへたばっちゃって、カスパールは病気
プラーター公園には蚊とウンコが一杯

モーツァルト事典/p226

プラーターへ誘う文句と、それを断る理由が歌われています。現在は観光スポットとなっているウィーンのプラーター公園。元々は皇帝の所有する狩り場でしたが、このカノンが作曲されたころには一般にも開放され、カフェや商店の営業が認められていました。

歌詞に出てくる”狩り場”の箇所は、原詞ではHetzとなっています。ヘッツというのは当時プラーターの近くにあった見世物場で、獰猛な猟犬に熊などを襲わせて見せていたのだとか。

「戦記を読むのはむつかしい」K.559

Difficile lectu mihi mars
Et jonicu difficile.   

戦記を読むなんてとても俺にはむつかしい
イオニア詩もむつかしい

1788年、モーツァルトがラテン語の歌詞に曲をつけたカノン。 これをバイエルン出身で訛りのある歌手の友人パイエルに歌わせると、ラテン語で「 Difficile lectu mihi mars 」(戦記を読むのは難しい)となるはずが、ウィーンの方言で「 leck du mich im Arsch 」(おれの尻をなめろ)となり、 「 jonicu 」は繰り返し歌うと「 cujoni 」(睾丸)と聞こえるように仕組まれています。そしてこの楽譜の裏には、いたずらが成功した時に仲間同士ではやしたてるためのもう一つの楽譜が。

それがこちら

「おお愚かなパイエルよ」K.599a

ああ、なんとバカなパイエル
ああ、パイエルはなんとバカなんだ
お粗末もいいとこ
まるで馬だ、頓馬だ
頭もなけりゃ足もない
おまえのバカは処置なしだ
絞首台にでもぶら下がれ



急いでおれの尻にキスしろ。でないとお前の尻を塞ぐぞ

モーツァルト大全集/訳:石井宏

パイエルへのいたずらの種明かしを歌った男声/四声のカノン。このような仲間同士の親交の曲までもが楽譜で残っていることに、彼の音楽に対する態度の豊かさを感じます。

今回ピックアップした曲の他にも、多言語で言葉遊びをする高度な技術を使った、下品な言葉の並ぶ曲がいくつか見つかります。「尻をなめろ」とは、ドイツに伝わる罵倒の文句で、日本で言うところの糞食らえ!消えろ!と同じような意味合いで使われる言葉。

手紙が最も重要なコミュニケーションツールだった当時、モーツァルト家からは700通以上の手紙が見つかり保存されていますが、恋人や幼馴染、家族など親しい人への手紙にもまた、ウンチやお尻の文字が飛び交います。

残っている資料から、モーツァルト=変態・スカトロジーと取り上げられ、面白おかしく揶揄されることが多いですが(本当にそうだった可能性もありますが)、厳しい身分制度の中でもそれを意に介さず、時代の熱を、大衆文化を嬉々として吸収し、友人や家族と心から笑い歌い楽しんだのではないでしょうか。

兄弟よ 陽気にやろう 勇敢に苦役に立ち向かうんだ
考えてもみろ 地上は呪われてる 誰もが自分の苦しみを持ってる
歌おう 笑おう 他にどうしようもないだろう
この世も苦役も同じものさ 誰も悩みからは自由じゃないんだ
歌おう 笑おう

オペラ「ツァイーデ」序曲 より

|参考文献|
監修:海老沢敏,吉田泰輔『モーツァルト事典:全作品解説事典』東京書籍/1991年
著:高橋英郎『モーツァルトで一日が始まり一日が終わる』講談社/1997年

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