<レビュー>新日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール・シリーズ 第640回定期演奏会
新日本フィルハーモニー交響楽団
サントリーホール・シリーズ 第640回定期演奏会
2022年2月21日(月)19時00分開演
春の喜び、魂を解き放ち高揚させるシンフォニーの響き
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暦の上で春とはいえ、まだ陽光淡く、演奏会にもさまざまな制限を余儀なくされている日々の中、クラシックの殿堂サントリーホールに新日本フィルの第640回定期演奏会を聴きに行ってきた。
春を呼ぶプログラムとして、日本では決して演奏頻度の高くない2つの交響曲を並べた構成で、演奏前には少し重いなという感想が正直なところであった。
しかし客席は、このような時期ということもあり満席ではないにせよ、それでも7~8割方埋まっていて、生のオーケストラサウンドを望むファンの心を反映させた、春を迎えるにふさわしい舞台であった。
客席を胸の高鳴りが静かに満たす中、マエストロ小泉和裕氏がバイオリンの間を縫って颯爽と登場。名演の予感。
一曲目、ロベルト・シューマンの『交響曲第1番変ロ長調op.38「春」』。この冒頭のファンファーレにいきなり度肝を抜かれる。鳴る!そうだ、演奏家たちも大勢の観客を前に春を告げるステージを待ち望んでいたのだ。
そうして色彩あふれる演奏が進んでいくうちに、これはシューマンの感情があふれた音楽なのだなと思わされる。
第1楽章からトライアングルを多用した終楽章のような盛り上がりであったが、第2楽章は少し落ち着いた色彩で進み、第3楽章の何度も繰り返されるくせになるフレーズ。オーケストラが鳴る鳴る!そして大団円の第4楽章。様々な楽器に聴かせどころがあり、第1楽章と比べると成熟した濃い春の色彩を感じさせる。
不思議なのは楽章を追うごとにどんどん聴かせられるところだ。これがシューマンの音の世界、春の音楽なのだ。ヨーロッパでは春を告げるシンフォニーの定番だそうだが、円熟の指揮者の若々しいタクトに乗せられて、それをまさに実感させられた思い切りの良い演奏であった。
さて、休憩。ここで心を少し落ち着けたい。先ほどまでのオーケストラの鳴りの良さから耳と心を少しプレーンな状態に戻す。
指揮者の小泉氏は、若くしてカラヤン国際指揮者コンクールで第1位をつかみとり、ヨーロッパやアメリカの名だたるオーケストラで指揮台に立ってきて、特にドイツ音楽を得意とする手練れ。
その氏が初代音楽監督を務めた新日本フィルハーモニー交響楽団は、近年、ポピュラーミュージックの巨匠久石譲と手を組んだり、2023年には佐渡裕を音楽監督に迎えたりと、精力的な動きを見せる。
かと思えば本拠地であるすみだトリフォニーから地元文化の醸成に取り組んだりと、今後も何をやってくれるのか楽しみな日本を代表するオーケストラである。
考えてみれば良い演奏にならないわけがない。
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