ヴェルディ渾身の人間ドラマ、オペラ『リゴレット』~あらすじや曲を紹介~
4.オペラ『リゴレット』の見どころ~「女心の歌」など~
オペラ『リゴレット』は有名アリアが目白押し!
マントヴァ公爵が歌う「女心の歌」をはじめとして、聞きなじみよく覚えやすい旋律が多いのが特徴です。
各登場人物のキャラクターを豊かに表現し、ドラマの劇的効果にも優れています。
ジルダのアリア「慕わしい人の名は」| Caro nome
マリア・カラス、スカラ座管弦楽団1956年
オペラ『リゴレット』第1幕後半。リゴレットの一人娘ジルダが、自宅に忍んできた貧乏学生グァルティエル・マルデ(正体はマントヴァ公爵)の名前を思い出しながら歌う初々しい恋の歌です。ジルダ役のソプラノ唯一の独唱曲でもあります。
軽やかなフルートの前奏に乗って、ジルダは学生「グァルティエル・マルデ」の名前をつぶやきます。弱声の繊細なトリル(二音を素早く交互に歌う技法)や柔らかい跳躍は、優しく善良な性格を表すようです。最後は消え入るようなトリルで、再び学生の名前を繰り返します。
純情な少女が恋の幸福に陶然とする微笑ましい情景ですが、歌う方は大変!明瞭なコロラトゥーラ(装飾的に歌う技法)、幅広い音域で繊細で柔らかな音色が求められる声楽難度の高い曲です。装飾的な歌唱技術を誇るコロラトゥーラ・ソプラノが、コンサートなどで披露することもあります。
初演でジルダを歌ったテレーザ・ブランビッラ
ヴェルディはオペラ『リゴレット』初演に際して、ジルダ役にさまざまなソプラノ歌手を検討しました。最終的に安定した歌唱力と高い声楽技巧を持つ、イタリアのソプラノ、テレーザ・ブランビッラを選びました。
リゴレットのアリア「悪魔め、鬼め」| Cortigiani, vil razza dannata
レオ・ヌッチ(リゴレット)
第2幕、さらわれた娘の返還を求め、リゴレットは道化の仮面をかなぐり捨てて訴えます。爆発する生々しい感情。「悪魔め、鬼め」は、数あるヴェルディのアリアの中でも、とりわけ強烈で劇的なアリアです。
このアリアが始まる前から、音楽はリゴレットの隠しきれない不安や疑惑を写し出しています。その感情がついに頂点に達した時、オーケストラの激しい和音ともに爆発的なアリアに引き継がれます。
怒りが無駄と悟るや憐れみを求める嘆きの音楽に、嘆いても無駄と悟るや今度は許しを請う音楽に。一人の人間の中で起きる目まぐるしい感情の落差と振幅。
従来のオペラ・アリアは形式的に、抒情的な場面からドラマティックな場面へと、緩から急の順で表現することが普通でした。ヴェルディはこれを真逆にひっくり返し、極限の状態に置かれた人間のなりふり構わぬ姿をリアルに表現しています。
初演でリゴレットを歌ったフェリーチェ・ヴァーレージ
初演でリゴレット役を歌ったのは、ヴェルディのオペラ『エルナー二』や『マクベス夫人』でも初演を務めたフェリーチェ・ヴァーレージ。ダイナミックな感情表現に優れた演技派バリトンでした。
四重唱「美しい愛らしい娘よ」| Bella figlia dell’amore
フェルッチョ・フルラネット(リゴレット)、ルチアーノ・パヴァロッティ(マントヴァ公爵)、エディタ・グルベローヴァ(ジルダ)、ヴィクトリア・ヴェルガーラ(マッダレーナ)、リッカルド・シャイー指揮、ウィーンフィル、1982年
第3幕前半、居酒屋の中のマントヴァ公爵(テノール)とマッダレーナ(メゾソプラノ)、外にいるリゴレット(バリトン)とジルダ(ソプラノ)という男女2組に分かれながら四声が立体的に絡み合う見事な四重唱です。オペラ史上最高傑作の四重唱として知られています。
マッダレーナを口説くマントヴァ公爵、巧みにあしらうマッダレーナ、公爵の不実な姿にショックを受けるジルダ、娘を慰めながら復讐の思いを強めるリゴレット。4人が同時にそれぞれの心情を歌い合います。
音楽上でも、4人それぞれのメロディにオーケストラの旋律が組み合わさり、立体的なアンサンブルを作り上げています。4人の性格と心情が明確に示されているだけでなく、それぞれの声質の特性とテクニックまでもが十分に発揮されるように作りこまれた四重唱です。ヴェルディ自身も以後、この四重唱を超えるアンサンブルを書くことはできませんでした
マントヴァ公爵のアリア「女心の歌」| La donna è mobile
ヴィットリオ・グリゴーロ、英国ロイヤル・オペラハウス
第3幕で2度歌われる、ヴェルディの数あるオペラ・アリアの中でも最も有名なアリア!マントヴァ公爵が歌う「女心の歌」です。移り気な女心を軽薄な調子で歌いあげます。
2分程度の短い曲ですが、一度聞いたら忘れられない旋律。ヴェルディは、マントヴァ公爵の初演を務めたテノール歌手のラファエル・ミラーテにも公演3日前まで楽譜を渡さず、この曲がオペラ公開前に外部に漏れないように注意していました。それでも初演の日にはもう、ゴンドラの漕ぎ手が口ずさみヴェネツィア中に広まったとか。
暗く荒涼とした情景に不似合いな輝かしい旋律です。第3幕開演後すぐに歌って旋律を印象付けておき、終幕間際に再び舞台裏から。遺体袋の中身がマントヴァ公爵だと思い込んで歓喜に酔いしれるリゴレットの耳に入り、驚愕と不安へと一気に叩き落とします。
自ら公爵の身代わりになったジルダ。しかし、ジルダが本当に救おうとしたのはリゴレットだったのかもしれません。ジルダは、殺し屋たちが公爵の代わりにリゴレットを殺そうとしていたところを聞いています。復讐に囚われることが父の命に関わると悟ったジルダが、最後に残した言葉は「彼を許して」でした。
ジルダの尊い愛をリゴレットは受け取ったでしょうか。オペラは、「呪いだ!」というリゴレットの叫びで終わります。ジルダを溺愛し必死で守ろうとしていたリゴレットですが、自分の名前さえ明かさず家に閉じこめ、娘の自由を理解しようとはしていませんでした。オペラ『リゴレット』は、人をモノのように扱う権力者の非道を指摘する一方、家族を所有物のようにしてしまう罪深さをも描き出しているのかもしれません。
5. オペラ『リゴレット』公演予定
新国立劇場でオペラ『リゴレット』が公演されます!
期間は5月18日(木)~6月3日(土)の6日間。
日本語字幕でじっくりオペラ『リゴレット』を鑑賞できます。
2023年5月18日(木)~6月3日(土)
新国立劇場オペラ『リゴレット』<新制作>
会場:新国立劇場 オペラパレス
開演:
5月18日(木) 19:00
5月21日(日) 14:00
5月25日(木) 14:00
5月28日(日) 14:00
5月31日(水) 14:00
6月3日(土) 14:00
★ チケット料金
27,500円〜5,500円
詳しくは:新国立劇場
画像|出典:Wikimedia Commons
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