ウンベルト・エーコ『ヌメロ・ゼロ』×ベートーヴェン『交響曲第7番2楽章』小説を彩るクラシック#20

第2楽章の、悲しみを背負っているように重く響く反復は、徒労に終わるヌメロ・ゼロ発刊を予見しているように響き合います。


エーコは次のように語ります。

「私たちの存在は私たち自身の記憶にほかならない。記憶こそ私たちの魂、記憶を失えば私たちは魂を失う」

桟敷席でベートーヴェンを聴いたマイアの記憶が読者の胸に迫るのは、こういうことなのでしょう。


どのようなセンセーショナルなニュースも、個人の記憶を超えて作用することはない、自分で体験したものに勝るものはないんだ、とエーコは伝えているように感じます。

情報が溢れ、スピーディに届く現代だからこそ、本や音楽にできることがあるのかもしれません。


参考文献
ウンベルト・エーコ(2016年)『ヌメロ・ゼロ』
中山エツコ訳 河出文庫


小説を彩るクラシック


1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。