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ウクライナの小説家ブルガーコフ『運命の卵』×チャイコフスキー オペラ『スペードの女王』、『エヴゲーニイ・オネーギン』~小説を彩るクラシック#23

ピョートル・チャイコフスキー
オペラ『スペードの女王』

ソフホーズ【赤い光線】の夜は美しく、まるで別荘地のようです。
ある晩、ロックの妻マーニャは白いゆったりとした部屋着を着てベランダで満月を眺めながら空想をしていました。

一〇時になり、ソフホーズの裏手にあるコンツォフカ村から何の物音も聞こえてこなくなったとき、牧歌的な風景は繊細でうっとりするようなフルートの音に包まれた。
その音色が森やかつてのシェレメーチェフ家の屋敷の円柱にどれほどよく似合っていたか、言葉にできないほどだった。
「スペードの女王」の華奢なリーザが情熱的なポリーナに声を合わせる二重奏で、そのメロディは古くはあるけれども、涙が出そうなほどいとしい時代の幻のように月にまで昇って行った。
「消えていく……消えていく……」
フルートは高く響き、トリルし、嘆き悲しむように歌った。

フルートを吹いていたのはロックでした。
ロックは政府の仕事に就く前は、有名なマエストロの楽団でフルートを吹いていたという経歴を持っており、演奏の腕前は抜群でした。偶然に通りかかった運転手も舌をまくほどの美しいメロディ。この物語で最もロマンチックな場面です。

卵が枯渇している状況下で、ソフホーズでは外国から鶏の卵がやってくるのを待っていました。
やがて卵は届き、赤色光線が当てられます。この実験が成功すれば、国内の卵問題は解決。そして、この光線を使って国は様々な進歩を遂げるだろう……。そんな思いで卵を見つめていると、卵の内側からコツ、コツ、と叩く音が聞こえます。
ロックはこの「勝利の音」に胸を高鳴らせます。

翌日、卵を覗きに行くと、ある卵が割れていました。ですが、孵った雛が見当たりません。ソフホーズの従業員総出で雛を探しますが、発見することはできませんでした。
ロックは「警備員の怠慢だ」と怒り、警備を厳重にし、気分転換のためフルートを脇にかかえて水浴びに出かけます。

 

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1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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