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チャールズ・ブコウスキー『死をポケットに入れて』 作家とクラシック音楽の関係〜 小説を彩るクラシック#8

『死をポケットに入れて』

『死をポケットに入れて』は、ブコウスキーの死後刊行された作品(日記)です。書かれた時期は1991年8月から93年2月まで、ブコウスキーが亡くなるのが94年3月ですから、約一年前までのブコウスキーの行動や思想などが記されていることになります。

ストーリー

この作品は「日記」ということになってはいますが、「エッセイ」または「評論集」といったほうが近いかもしれません。書き出しではその日の行動などに触れられることもありますが、作家の考える死生観や、人間存在や芸術論までが語られ、晩年の人間のもつ諦念や凄みを感じる貴重な作品となっています。

ブコウスキーはほとんど毎日競馬場に行きます。毎日酒を飲み、毎日クラシック音楽を聴き、毎日小説を執筆します。競馬も執筆も良いときもあれば悪いときもあります。

ですが、クラシック音楽は裏切ることはありません。それはブコウスキーに勇気を与え、心を癒してくれる存在のようです。

ブコウスキーとクラシック音楽

ブコウスキーは、二階にある仕事部屋でラジオからクラシック音楽を一晩に三、四時間聴くといいます。
ある日、ラジオからグスタフ・マーラーが流れてきます。

ブコウスキーは「マーラーなしではいられない時がある」、「延々とパワーを盛り上げていってうっとりとさせてくれる」、「ありがとう、マーラー、わたしはあなたに借りがある。そしてわたしには決して返せそうにない」

と、最大級の賛辞を送ります。

また、フリーウェイでモーツァルトが流れてきたときも「運がいい」、「たまには人生も素晴らしいものになる」とモーツァルトの素晴らしさに言及する場面が登場します。
罵詈雑言飛び交うブコウスキーの小説ではほとんど見られない場面です。

Mahler song cycle K626 Requiem Dies Irae

ブコウスキーは度々、作家という人種について悪態をつきます。まやかし集団で、理解しがたい存在とまで言ってのけます。ハリウッドや、テレビ業界の人間も嫌悪します。

それがクラシック音楽のことになると態度は一変、「わたしにとってのドラッグ」で、「一日の間にわたしにこびりついたもろもろのくだらないことをすっかり洗い流してくれる」と語ります。

特定の作曲家(作品)に対して語る場面は少ないので、趣向ははっきりとわからないのですが、そのクラシック愛は本物でしょう。

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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