森絵都『子供は眠る ロベルト・シューマン〈子供の情景〉より』~小説を彩るクラシック#25
ロベルト・シューマン『子供の情景』
全13曲のこの小曲集には標題がつけられており、主人公の「ぼく」は、「ピアノ曲ってあいかわらず退屈だ」と感じるのですが、標題については「ちょっとおもしろい」と感じたようで、曲ごとの感想を次のように語っています。
1.見知らぬ国と人々について
おっとりスローなメロディーで、じゃがまるはすでにこの曲が終わった時点で眠りこけている。
2.不思議なお話
3.鬼ごっこ
二、三曲目はあっという間に耳をすりぬけていく威勢のいい曲。
4.おねだりする子供
再びすとんとテンポを落とす。
5.大満足
6.重大事件
五、六曲目はうとうとしかけたぼくの脳みそをひっかきまわす。
7.トロイメライ
この曲だけはぼくも知っていた。起きたての赤ん坊でもまた眠るような子守歌。このへんで智明はダウン。
8.炉ばたにて
軽快なリズムのかわいい曲。
9.木馬の騎士
わずか数十秒で激しく果てる。
10.むきになって
ぜんぜんむきになっている様子のない、うすらとぼけたメロディーだ。
このあとは、11.びっくり 12.子供は眠る 13.詩人のお話と曲は続くのですが、「ぼく」は11曲目あたりで眠ってしまうようです。
十一曲目の〈びっくり〉が浮かんでこないところをみると、ぼくは毎回、そのまま 夢の世界へ引きずりこまれてしまうらしい。まだ意識は残っている。あと二曲だ。がんばれ。シューマンなんかに負けるな。だけどぼくは負けてしまう。十二曲目の途中で、完全に、熟睡してしまうんだ。癪なことに、その十二曲目のタイトルときたら、〈子供は眠る〉。だからぼくはまだ一度も、最終曲、〈詩人のお話〉を聴いたことがない。
シューマンに負けるな、と踏ん張りながら最後まで曲を聴こうとする「ぼく」ですが、どうしても最終曲に辿り着くことができません。それに対して章は「ぼく」たちに、「たった20分の曲も最後まで聴けないガキ」と罵ります。
その後、集団生活の中で章の独裁者ぶりはエスカレートしていき、「ぼく」たちは不満を募らせていくようになります。
今までは章に対して、従うのが当然と思っていた「ぼく」ですが、あるとき、「どうしてぼくはいつも章くんの言うとおりにしなきゃいけないんだろう?」と、疑問を感じるようになります。
一番年長だから? 別荘の主人だから? 5年前は何も感じなかったのに……
この日を境に5人の集団生活はぎくしゃくとしたものに変わっていきます。
『子供は眠る』は、中学生という多感な時期の少年たちの心の変化を、クラシック音楽を通して表現した作品です。
なぜ章はクラシック音楽を聴くのか? 「ぼく」は最終曲〈詩人は語る〉に辿り着くのか?
ネタばれは控えますが、クラシックファンのみなさんには必ず楽しめる作品です。興味があるかたは是非手に取ってみてください。
それにしても「ぼく」が語る『子供の情景』の一言レビュー、なかなか素敵だと思いませんか?
参考文献
森絵都(1996年)『アーモンド入りチョコレートのワルツ』角川文庫
小説を彩るクラシック
森 絵都『彼女のアリア』
森 絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
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