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無垢な愛が奏でる官能と戦慄、R.シュトラウスのオペラ『サロメ』〜あらすじや曲を紹介〜

3. オペラ『サロメ』のあらすじ〜無垢な愛、無慈悲な執着〜

サロメの愛の目覚め。それは、何にも侵されない無垢な愛。

色情を向ける義父と心の通い合わぬ母の元、王女として何の制約も受けずに育ったサロメ。親から愛を教わることもなく、宗教や法律、道徳や倫理観など、社会が作り出したルールや固定観念に一切染まっていない人間がいるとしたら。その愛とは恐ろしいほどシンプルで、残酷で直接的なものかもしれません。

オペラ『サロメ』の物語は、新約聖書のエピソードが基になっています。聖書の詳しい内容は、「7.新約聖書からオペラのサロメへ」の項目をご参照ください。ここでは、簡単に説明を加えてあります。

あらすじを知って実際の劇を鑑賞してみましょう。

サロメ あらすじ
✳︎ 第1幕 第1場 ✳︎


(古代イスラエルのガリラヤとペレアの分封領主ヘロデ・アンティパスは、異母兄の妻であったヘロディアスに恋慕し、兄を殺害して彼女を妻にしていました。そして、ヘロディアスに飽きたヘロデは、妻の連れ子のサロメに情欲を抱いています。当時の律法は兄弟の妻との性関係を禁止していたため、預言者ヨカナーンは領主夫妻を糾弾。ヘロディアスは自分を侮辱するヨカナーンをヘロデに捕えさせ、井戸の底に閉じこめていました。)

【死海の東、ペレアにあるヘロデの宮殿のテラス】

宮殿の大広間には、領主ヘロデの誕生日を祝う客人が集まり、月が輝く広大なテラスにまでパーティの物音が聞こえてきます。

テラスではシリア人の護衛隊長ナラボートが、王女サロメの姿を見つめています(「今夜のサロメ王女はたいそうお美しい」)。ナラボートの友人である王妃ヘロディアスの小姓は、彼の目をサロメから逸らそうとします。2人の兵士が騒ぎを聞いて目を向けると、ユダヤ人達が宗教論争で騒いでいます。

すると、隠し井戸の中から預言者ヨカナーンの声が。兵士の一人はヨカナーンが常人ではないことを悟ります。サロメを眺めていたナラボートは、彼女がテラスに出て来るのを見て心をときめかせます。

サロメ あらすじ
✳︎ 第1幕 第2場 ✳︎

ギュスターヴ・モロー「牢獄のサロメ」(1873-76年)
出典:Wikimedia Commons


サロメは継父ヘロデのいやらしい視線と、客人たちの振る舞いに嫌気が差していました。夜空の月を銀貨にたとえ、月の純潔さに心を打たれるサロメの耳に、ヨカナーンの声が。その声に心を奪われたサロメは、ヨカナーンに興味を持ちます。ナラボートはサロメを宴席に戻らせようとし、ヘロデの召使もやってきて進言しますが聞き入れません。

ヨカナーンの声が再び響き渡ると、ヨカナーンと会ってみたい思いに囚われてしまいます。ナラボートが自分に夢中であることを知っているサロメは、ヨカナーンを井戸から出すようナラボートをなだめすかします。王に禁じられていると断るものの、サロメの誘惑に負けたナラボートは、とうとう井戸を開けるよう号令を下します。

サロメ あらすじ
✳︎ 第1幕 第3場 ✳︎

「洗礼者ヨハネ」レオナルド・ダ・ヴィンチ(1513-1516年)
出典:Wikimedia Commons


井戸から現われたヨカナーン。ヨカナーンの謎めいた姿に、サロメは心を奪われます。話したいと望み、ヨカナーンが拒めば拒むほど執着心を募らせ、「肌に触れさせて」、「髪に触れさせて」、「口づけさせて」と、その美しさを歌います。しかし、サロメはヨカナーンの肉体を褒めてばかりで、貞節と悔恨を説くヨカナーンの言葉を全く理解しません。

狂気の様相でヨカナーンを求めるサロメの姿に、耐えきれなくなったナラボートは自殺してしまいました。サロメはヨカナーンと口づけしたい欲求で理性を失っています。ヨカナーンは「ただ一人の方(イエス)を探せ」と諭しますが、サロメの耳には届きません。「呪われている」と吐き捨て、ヨカナーンは自ら井戸の中に戻って行きます。

サロメ あらすじ
✳︎ 第1幕 第4場 ✳︎

サロメに扮する日本の奇術師、松旭斎天勝(1915年撮影)
出典:Wikimedia Commons


ヘロデとヘロディアス登場。ヘロデはイライラした様子でサロメを探し、テラスでパーティの続きをしようとして、ナラボートの血に足を滑らせます。不吉に感じ、幻覚に襲われるヘロデ。サロメを見つけたヘロデは、「ワインを飲もう」、「果物を食べよう」、「王妃の玉座に座ってもいい」と誘いますが、3度とも断られます。

その時、井戸の底からヨカナーンの不吉な予言が。ユダヤ人たちがヨカナーンを引き渡すようにヘロデに訴え、そこかしこで論争や言い争いが繰り広げられます。不吉な思いを紛らわせようと、ヘロデはサロメにダンスを披露するよう要求。「どんな願いもかなえてやる」という約束を取り付けたサロメは、母の制止を無視して準備に下がります。幻覚で息苦しくなったヘロデは、頭から王冠を外して投げつけます。

「用意ができました」とサロメ。官能的なダンスを踊ります(「7つのヴェールの踊り」)。

満足したヘロデは、褒美に何が欲しいかサロメに尋ねます。サロメが所望したのは「銀の盆に乗せたヨカナーンの首」でした。驚喜するヘロディアス。一方のヘロデは、必死でサロメを説き伏せます。領土の半分、祭司長のマント、至聖のとばりでもくれてやると訴えます。母の入れ知恵に耳を貸すなと説得しますが、サロメは自分の意思ですと突っぱね、あくまで約束を守るように主張。屈したヘロデは、その場に倒れこみます。ヘロディアスは、夫の指から抜き取った死の指輪を首切り役人へ。


サロメは井戸の前で耳をすませ、ヨカナーンの首が上がってくるのを待ちます(「なんの物音もせぬ」)。とうとう首切り役人が、ヨカナーンの首を持って登場。恍惚として、首が載った盆を高々と持ち上げるサロメ。ヨカナーンの首に語りかける長大なモノローグ「ああ、そなたはこの口に口づけさせてくれようとしなかったわね」が続きます。そして、ヨカナーンの口に口づけ・・・。


異様な光景に激しい嫌悪をおぼえるヘロデ。災難を予期し、王宮に隠れるために全ての明かりを消すよう命じると、舞台は真っ暗になります。「ああ!そなたの口に口づけしたわ、ヨカナーン」。月の光の中、「これが愛の味・・・」とヨカナーンの血を味わうサロメ。「あの女を殺せ!」振り向きざま叫ぶヘロデ。兵士たちがサロメを取り押さえます。

次のページ:4.『サロメ』の見どころ|5.公演情報

神保 智 じんぼ ちえ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース声楽科在学中。子どものころから合唱団で歌っていた歌好き。現在は音楽大学で大好きなオペラやドイツリートを勉強中。

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