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音楽家すぎやまこういちを偲んで~ドラゴンクエストで融合し、受け継がれるクラシック音楽とゲーム音楽~(10/5公演情報更新)

ドラクエにクラシック音楽が使われたのは必然!

『ドラゴンクエスト』の制作に参加したすぎやまさんは、最初はロック風のBGMをリクエストされたそうです。ですが、すぎやまさんはゲームの内容を知って「クラシック風のほうがいい」と提案し返したそうです。

『ドラゴンクエスト』では、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界を舞台に、主人公の勇者が、伝説のドラゴンなどのモンスターからお姫様を救い、魔王を倒す物語をゲームの中でなぞっていきます。

そんな『ドラゴンクエスト』の物語はクラシック音楽の歴史と照らし合わせると、劇中の時代も、ストーリーも共通するところが多くあります。

『ドラゴンクエスト』の世界観は、細かな違いは沢山あるのですが、現実での16〜18世紀ごろの文化・文明がモチーフだと言われています。この時代は主にバッハ(1685-1750)などのバロック音楽家が活躍していた時代ですから、クラシック音楽はまさに設定年代ぴったりの音楽といえるでしょう。

また、例えばワーグナーのオペラ『ニーベルングの指輪』で魔竜ファフナーを打ち倒す英雄が謡われているように、オペラには魔物を討ち、お姫様を助ける英雄や騎士の物語も少なくありません。

魔竜ファフナーを討つジークフリート(画:アーサー・ラッカム)
出典:Wikimedia Commons

設定年代、冒険を謡うことの両面に加えて、ゲームという作品だからこその事情もあります。

ゲームでは冒険の間、同じ町や洞窟に行ったらその度に同じ曲が流れることになります。
それも遊び方によっては、毎日少しずつ、何か月も遊んで、その間何度も何時間も同じ曲を耳にする人だっています。
ですからすぎやまさんは、クラシック音楽の”何百年も飽きられないで聞き継がれる音楽性”を目指して作曲したと語っていました。

すぎやまさんが勇者の冒険を彩るのにクラシック様式の音楽を用いた理由に、なるほどと納得させられます。

クラシック様式の音楽でゲームを盛り上げる手法はその後の多くのゲームにも引用され、もはや西洋風の世界観なら当然のことになっていますが、その最初の一歩を作り出したのは『ドラゴンクエスト』といっても過言ではないでしょう。

ドラクエが切り開いたゲーム音楽の歴史

『ドラゴンクエスト』でのすぎやまさんは、当時のゲーム機の性能のために、単純な電子音で三和音までしか鳴らせない条件での曲作りという難しい課題をこなしました。

初代ドラゴンクエストのオープニング。高音部が二音、低音部が一音の三音で奏でられている。

さらに、場面が王様のお城なら華やかな曲、モンスターのいる洞窟では暗く不気味な曲、戦いの間は勇ましい曲など、一つのゲームに沢山の曲を用意し、場面に合わせて曲を使い分けるのは『スーパーマリオブラザーズ』(1985年発売、任天堂。音楽は近藤浩二)と『ドラゴンクエスト』が手探りで確立した手法です。
初めてゲームにBGMがついたのは、1980年リリースの自動車ゲーム『ラリーX』(ナムコ)だとされていますが、当初はまだ同じ曲がゲーム中ずっとループで流れているだけ、というものでした。
場面にあった音楽演出は、映画などでは当たり前に行われていたことではありますが、ゲームにおいてそれをどう対応させるかほとんど前例がない中での挑戦です。様々な苦労を工夫で乗り越え、当時のマリオとドラクエの二作はそれぞれに成功を収めました。

今や当たり前になっていることですが、そうした当たり前を手探りで見つけていった曲作りが、たくさんの人の心に残るものになりました。
先述のオリンピック開会式ではほかに『ファイナルファンタジー』『テイルズオブ』シリーズなど14シリーズのゲームから音楽が使われましたが、それらが愛される歴史の始まりに、『ドラゴンクエスト』があったといえるでしょう。

コラム:ファミコンの制限 ~音源とデータ容量~
当時『ドラゴンクエスト』を遊ぶのに使ったゲーム機ファミリーコンピューターには、音を作るための音源チップという装置が4つしかなく、そのうち一つはノイズ専用だったので、音楽に使えるのは最大3つだけでした。このチップが一つ一音しか出せないものだから、同時に三音しか鳴らせなかったのです。
オープニング以外の場面だと、ゲーム内の効果音も一緒に鳴らさなくてはならないので、一つを効果音に明け渡した二音だけのBGMも多くありました。
少ない音源チップで和音を再現するために、高速で別の音を交互に鳴らして分散和音にするなど様々な工夫が見られます。
また、音源チップはいわゆるピコピコした電子音しか出せず、音色にも制限がありました。
録音した生の音をゲームで自由に使えるようになるのは、1994年発売のプレイステーション以降のゲーム機になってからです。
さらに当時のゲームソフトは、使えるデータの容量がごく僅かに限られていました。初代『ドラゴンクエスト』はゲーム全体で64KBしか使えなかったのです。
録音時間75分の音楽CDがデータ容量650MBなのでドラクエの1000倍のデータ量。最新作『ドラゴンクエスト11』Nintendo Switchダウンロード版は14GBですから、およそ20万倍!

オペラハーツの編集とライターを兼任。 小中でピアノ教室に通い、中高では吹奏楽部で打楽器を担当した程度の演奏経験。 クラシック以外にロック、EDM、ボカロ、ゲーム音楽なども好んで聴く。

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